2017-06-17

【プロフィール】
柳川雅樹 / Yanagawa Masaki
1987年、兵庫県生まれ。DF。ヴィッセル神戸の下部組織で育ち、Jリーグではヴィッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府、ザスパ草津、栃木SC、ガイナーレ鳥取でプレー。2007年にはU-20日本代表に選出され、FIFA U-20ワールドカップに出場した。2015年にフィリピンへ移籍し、2シーズン目を迎えている。

ヴィッセル神戸などで活躍し、2007年のFIFA U-20ワールドカップではU-20日本代表のセンターバックとして出場した柳川雅樹。昨シーズン、フィリピンリーグの強豪であるグローバルFCに移籍し、今季は同リーグの日系クラブ、JPボルテスFCでコーチ兼選手を務める。Jリーグでの経験も豊富なディフェンダーに、注目の新興国・フィリピンはどう映っているのだろう。
 
-昨シーズン、ガイナーレ鳥取からフィリピンリーグのグローバルFCへ移籍していますが、その経緯から教えてください。
 
もともと、去年のシーズンは海外でやりたいと思っていたんです。特に英語圏のチームで英語を勉強しながらプレーしたいと思っていました。選手を終えたあとのことを考えても何かしら能力が必要ですし、英語力や海外でプレーする経験もメリットがあるだろうと。
 
-フィリピンも「英語圏」といえる国ですが、もともとフィリピンリーグという選択肢も頭にあったのですか?
 
いえ、全くありませんでした。実際、いきなり英語圏に移籍するのは難しいだろうとも思っていたので、エージェントにも「できれば、家族と一緒に住める英語圏の国がいい」とは伝えていましたが、まずはどこでも行くつもりではいました。そういうなかで、たまたまフィリピンのチームが日本人のセンターバックを探しているという話をもらって、移籍することになりました。
 
-柳川選手のキャリアの中で、昨シーズンが海外へ出るのにいいタイミングだったのでしょうか。
 
以前から海外でやりたいという気持ちはあったんですが、「いつか、やりたいな」というくらいでした。でも、2014年にJ3を経験して、これなら海外のほうがいいという気持ちが強くなったんです。正直、勝利給なども1試合戦ってこれか、という思いがありましたし、自分の中ではJ3の待遇や環境は、「これはプロサッカー選手ではないな」と感じていました。
 
-では、今のフィリピンリーグのほうがプロとしての実感がありますか?
 
そこはまた難しいところで、待遇に関しては「これくらいもらえればいいかな」と感じるものでしたが、フィリピンの問題点はお客さんが全く入らないことです。東南アジア特有の考え方なども知ることができて自分の世界は広がっていると感じていますけど、観客がいないというのはやっぱりプロではないですよね。
 
-先日、カップ戦の決勝を観戦しましたが、たしかに観客は数百名といったところでさみしく感じました。
 
カップ戦の決勝であれば、それがマックスですよ。普段は数十人くらいの関係者のみで、純粋なファンはほとんどいない状況ですから。リーグのマネージメントに大きな問題があって、試合の告知も全くされていないですし、スケジュールも直前に変更になったりするので、ファンとしては来ようがないという状況です。
 
ただ、AFCカップの試合なんかはスケジュールもわかっていますし告知もけっこうされるので、数千人が集まります。フィリピン代表も人気がありますし、サッカーに興味がないわけではないんです。フィリピンの人は流行りものに弱いところもあるので、やり方次第では絶対にファンを集めることはできると思います。マネージメントのところに、日本人が入ってくれれば変わると思うんですが。
 
-一方で近年はフィリピン代表が急速に力をつけてきていますし、今年はAFCカップでもセレス、カヤというフィリピンの2チームが結果を出しています。レベルの面では著しい成長を見せていますが、その点はどう感じていますか?
 
トップの4、5チームは能力が高いと思います。ドイツでプレーしていた選手などもいるので、そういう選手の中にはサッカーを知っているなと感じる選手もいます。去年、グローバルFCに入って最初の印象としては、「J3よりもレベルが低いんじゃないか」と感じたんです。でも、やっていくうちに、そうでもないのかなと。見た感じは技術がなくてサッカーも知らないので、なんでこんなことできないの?と感じることもあったんですが、それを上回る身体能力だったり、下手だけど点を取る能力だったり、そういったものは日本人よりも上なんです。そこは、サッカー観を変えられました。
 
ただ、フィリピンで育ったローカルの選手は18~20歳くらいでサッカーを始めたというような選手もいますし、フィリピンリーグにはいい指導者もいないので、全体的に戦術的な面は全くないのが現状です。
 
-上位のクラブはある程度資金力もあると聞きますが、いい指導者を獲得しようとはしないのでしょうか。
 
そういう発想はないように感じます。ネットワークもないのだと思いますし、何がいい指導者なのかというのもわからないんじゃないかと。それよりも、いい選手を一人連れてくれば勝てる、というような発想のように思います。
 
-フィリピンのナンバーワンスポーツはバスケットですから、その感覚があるのかもしれませんね。
 
それもあるかもしれません。指導者に関しては上位のクラブはだいたい外国人の監督なんですが、トップレベルでの指導歴はほとんどない人ばかりで、ライセンスも持っていません。去年所属していたグローバルFCの監督も、日本でキッズのスクールか何かを指導していたことがあるそうですが、選手としてのキャリアやトップレベルの指導歴はありません。どこもそういった感じなので、まともな戦術はなく、蹴ってセカンドボールをひろって、というサッカーで勝ててしまうのが現状です。
 

-近年、力をつけているフィリピン代表についても同じような面があるでしょうか。
 
問題は同じです。きっちりとマネージメントをして、いい監督が指導すれば、ワールドカップ予選でもアジア最終予選くらいには行ける力が十分あると思います。今のフィリピン代表も相当能力は高いので、本当にもったいないです。代表の試合日程を考えてリーグのスケジュールが組まれていませんし、練習も直前に集まってやるくらいです。選手の能力をうまく生かせていない状況です。
 
-フィリピンの現状を知る方は、口をそろえて「もったいない」と言います。逆に、当たり前の部分が改善されれば、今のタイのように一気にアジアの上位争いに加わってくる可能性がありそうですね。
 
はい。フィリピンの人はプライドが高くて、簡単に外部から人を入れたり意見を聞いたりしないところがあるようなんですが、マネージメントの部分や代表監督に日本人が入るというのも一つの解決策なのかなと。それから、フィリピン代表は試合や大会ごとに選出されるのではなくて、メンバーがほぼ固定されてしまっているのも問題です。フィリピン代表は「アスカルズ」という愛称があるんですが、「アスカルズ」という一つのチームがあるようなイメージで、ファンもサッカー選手=アスカルズの選手と思っているような感じですから。
 
-東南アジアの中でも本当に振興のリーグですから、いろいろとギャップを感じる面も多いかと思います。フィリピン1年目の昨シーズンは、柳川選手にとってどんなものでしたか?
 
AFCカップに出てマレーシアやミャンマーなどのクラブと試合もできましたし、自分の視野を広げるにはいい経験だったと思います。ただ、もちろんJリーグとのギャップは言い出したらきりがないくらい感じました。
 
-2年目の今季は日系クラブで監督も日本人のJPボルテスFCに移籍していますが、やはりローカルのクラブとは違いますか?
 
そうですね。今は充実しています。JPボルテスは数年で確実にフィリピンリーグのトップに立てるだろうと感じています。ボールをつないだきっちりとしたサッカーをしていますし、守備の戦術も持っています。今やっていても十分手ごたえがありますし、フィリピン人選手がもう少し戦術を理解するようになれば絶対に大丈夫だと思います。
 
-日系クラブがフィリピンサッカーを変える、ということもあり得るでしょうか。
 
可能性はあると思います。フィリピンリーグには、上にいるチームに発言権があるというところがあるので、日系のボルテスや、イギリス系でしっかりとやっているカヤというチームが上に立てば、いい方向に行くんじゃないかと思います。そのためには優勝してAFCカップに出場しないといけませんし、来年、再来年にはそういうことも視野に入ってくると思います。
 
-それは楽しみです。そういう状況の中で、柳川選手もフィリピンサッカーの発展に貢献したいという気持ちが出てきていますか?
 
先のことはわかりませんけど、現時点ではその気持ちがすごく大きいです。フィリピンでお客さんを満員にしてやりたい、というのが今の一つの夢です。自分たちだけの力では厳しいので、僕たちを見て他のチームも変わってくれるような状況になってくれればと思っています。

<了>

Text & Photo: 本多辰成


*2016年4月に取材した内容です。



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