2014-10-11

<プロフィール>

壱岐友輔 / Iki Yusuke

U-14カンボジア代表監督

 

東北学院高校卒業後、一年間ブラジル留学。帰国後、東北学院大学に通いながらソニー仙台でプレー。退団後、べガルタ仙台アカデミーで指導者のキャリアをスタート。14年間ベガルタに在籍した後、現在はU-14カンボジア代表監督としてカンボジアの育成年代の指導にあたっている。

 

カンボジアで立ち上げられた“2023年プロジェクト東南アジアのオリンピックとも称される東南アジア競技大会(SEA GAME)を2023年にカンボジアで初開催し、そこでカンボジアサッカーを東南アジアの頂点に立たせる、というものだ。その10年がかりのプロジェクトの第一歩として、U14カンボジア代表監督に就任した壱岐友輔氏に話を聞いた。

 

 

-まずは、U14カンボジア代表監督就任までの経緯を教えてください。

昨年まで14年間、ベガルタ仙台アカデミーで指導していたのですが、日本サッカー協会のアジア貢献事業の一貫として今回の話をいただきました。ベガルタに籍を残したまま、JICAのサポートを得て、昨年末に派遣された形です。

 

2023年の東南アジア競技大会へ向けたプロジェクトということですが。

2023年の東南アジア競技大会が、初めてカンボジアで開催される可能性が高い。現在、招致中ですが、おそらくカンボジアで決まるだろうと聞いています。サッカーをその強化競技の一つとして、国の教育省とサッカー協会、FIFA(国際サッカー連盟)のゴールプロジェクトなどのサポートも受けて、カンボジア・フットボールアカデミーが今年スタートしました。東南アジアチャンピオンを目指して、「10年かけての1年目」というところにも魅力を感じましたね。

 

-では、話をもらって、即決だったのでしょうか。

いえ、家族もいますし、即決はできませんでした。決断する前にアカデミーのことをもっと知りたかったので、昨年の10月に一度視察に来たんです。アカデミーの施設を見たところ、天然芝が4面あって、宿泊所もしっかりしていた。ハード面のクオリティが高かったので、そこである程度決めました。国の代表に関わるというのは滅多にないことですし国としても力を入れているプロジェクトなので、最終的には家内も送り出してくれました。

 

-最初から、U14代表監督としての派遣だったわけですね。

はい。ただ現状、カンボジア・フットボールアカデミー自体がそのまま代表の位置づけなんです。それではいけない、ということで、いい選手が代表に入れるように、リーグ戦と優秀な選手を集めてのトレセン活動をスタートさせました。アカデミー活動を定期的に取り組んでいるクラブは一つくらいしかなくて、それ以外は日本の少年団のように週末だけの活動がメインとなっている状況です。育成に対する認識がないに等しい状態なので、素材があっても練習をしないから育たない、という状況を変えていかなければいけません。

 

-そういった改革も仕事の一つなんですね。

それは、もちろん。カンボジアでの仕事は“四本柱”を軸に考え仕事をしています。「選手育成」「スカウト」「環境整備」「プロモーション」です。一つ目はもちろん、選手たちをきちっと育てる。二つ目のスカウトについては日本のように選手登録制度、チーム登録制度、指導者登録制度といったものが整っていないので、どこにどんな選手がいるのかわからないんです。いろんな県のコーチと連絡を取ったり、リーグ戦を開催して選手を見られる機会をできるだけ作っています。

 

-三つ目のハード面に関しては、整っているのはアカデミー施設だけということでしょうか。

そうなんです、他のグラウンドはボコボコです。人工芝のピッチがあっても、全てがフットサルサイズ。プロが試合をするオリンピックスタジアムでも、よくプロができるな、というくらいの悪いコンディションなので。ただ、来年から人工芝に変わるという話は聞いています。最後のプロモーションに関しては、まだアカデミーの活動が国内で知られていないので、私もできるだけ積極的に多くの人に知ってもらおうと取材を受けるようにしています。そうすれば、自分もアカデミーに入りたいという選手も出てくるでしょうし、スポンサーの獲得にもつながると思っています。

 

-現在、アカデミーにいる選手は壱岐監督が直接セレクトしたのですか。

昨年10月の視察の時に、セレクションをしました。ただ、これが大問題で、東南アジアならではのオーバーエイジばかりだった。実際スタートしてみたら、選んだメンバーと全然違ったんです。聞いてみたら、「すみません、実はオーバーエイジだった」と。怪しい選手がいるとは思ったので補欠も選んでいたのですが、選んだ20人全員がオーバーエイジだったのには度肝を抜かれましたね。21番目から40番目の選手ですからレベルは厳しいですし、さらに調べたらまだ5人くらいいた…。それは、本当に大変でした。

 

-目指すところが明確だから、年齢が重要ですよね。

そうなんです。東南アジア競技大会の規定で2023年に23歳以下でなければいけないので、厳しくチェックしています。その上限が今のU14で、今は日本で言う小学6年生から、中学3年生の早生まれまでが在籍しています。選手達は全寮制で近くの学校に通っていて、学年によって帰ってくる時間も違う。この年代の集団ですから、体格の違いもあるので練習メニューを考えることも難しいところです。

 

-最初に選んだ選手ではないということは、やはり現状のレベルは厳しいですか。

そうですね。ただ、今年の2月からスタートして約8ヶ月間練習や試合を繰り返してきた甲斐もあり、レベルはかなり上がってきています。それは本当に目に見えて、手に取るようにわかるような成長です。何も教えられていないだけに、逆に伸びしろはすごくあると思います。ただ、技術は光る選手がいますが、戦術レベルはまだまだ乏しい。カンボジア自体がそうで、プロの試合を見ていてもそれは感じます。

 

 

-カンボジアの子供を教える難しさはどういったところでしょう。

サッカーに入れば結局、伝えたいことは日本と同じなんです。ただ、言葉の微妙なニュアンスが伝えづらい。通訳はいますがサッカーは素人なので、用語がわからないんです。コーチはもちろんですが、通訳の育成も必要ですね。

 

-時間にルーズな点など、タイではよく文化面の違いが語られますが、カンボジアではどうですか。

国の文化としては違いがありますが、アカデミーの中での“文化”は作ることができます。遅れちゃいけないよ、整理整頓をしなさい、自分のことは自分でしなさい、食事を残さずたくさん食べなさい、アカデミーの中でのルールは決めることができるんです。家庭や国の背景でどうしても譲れないところは合わせなければいけませんが、ルールを破った選手はガンガン叱りますし、基本的には日本と同じようにしています。カンボジア人のアシスタントコーチも含め全員で育成している感じですね。

 

-その方法で問題なく浸透していますか。

はい。今では、自分たちで注意をしたりするようになりました。サッカーに関しても、今は自分のできないことは認めて、それをみんなで共有して練習するようにもなりましたし、映像を使ったミーティングを繰り返して成果は出ていると思います。いつも一緒にいるから可能なところもあると思いますが、育成年代だからこそ矯正できることは多いと思います。

 

-カンボジアリーグの試合を見る機会は多いですか。

はい、毎週見るようにしています。できるだけ、選手にも見せるようにしています。トップがどういうサッカーをするのかというのが、過去10年、15年の育成の結果です。今のカンボジアリーグを見ていると、テクニックも戦術もない厳しい状況です。今のプロジェクトがうまくいけば、成果として10年後に表れるはずです。

 

-カンボジアリーグでも日本人選手が年々増えていますが、タイ同様に「日本」が求められているんでしょうか。

それは間違いありません。実際に来てみると思っていた以上に、本当に日本を必要としているんだなと強く感じます。いい日本人選手はいないかとか、いろいろ聞かれますよ。アジアの中ではレベルと育成システムにおいて一目置かれていますし、そのリスペクトはすごいものがある。おそらく、日本人の姿勢などからも現地の人は学ぶことが多いんじゃないでしょうか。今のカンボジアの技術委員長も日本が好きで、取り組みや姿勢を高く評価しています。それで、日本の指導者にこのプロジェクトを託したい、ということになったんだと思います。

 

-「日本」によって、カンボジアサッカーはいい方向に向かうでしょうか。

それも間違いないと思います、この7、8ヶ月でもすでに感じていますから。日本の選手にも、Jリーグだけじゃなく、アジアでも活躍できるということを知ってほしいですね。カンボジアはタイと違ってまだ条件は厳しいですけど、その中で学ぶことはあると思います。たとえば、大学で一気に開花する選手がいるように、海外の違う環境の中で一気に開花することも当然あると思うんです。そういう選手が日本に戻る、というケースもあっていいと思いますね。

 

-最後に、今後の展望や目標を教えてください。

まず、当面の目標は来年にあるU16アジア選手権の予選を通過することです。通過できなくても、今まで負けるのが当たり前、試合をこなすだけだった選手たちに目標を持って取り組んできた上での勝敗を感じてもらいたい。それが必ず次へのステップとなるんですよね。今回のU16アジア選手権を現地で視察して、アジアのトップレベルを生で見ましたが、全く手の届かないところではないと感じました。2023年の東南アジアチャンピオンは、十分可能だと思っています。2023年に向けてしっかりとしたロードマップを作成し、少しずつ状況に合わせながら改善して、継続できるようなサイクルをつくっていきたいですね。

 

<了>

Text: 本多 辰成 / Honda Tatsunari

Photo: ASEAN FOOTBALL Link

 

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小倉 敦夫 日本化を進めるタイ・プレミアリーグのチョンブリーFC。クラブの日本化はピッチ内だけでなく、ピッチの外でもこの男によって進められている。

 

 

 


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