2014-10-23

<プロフィール>

茂庭 照幸 / Moniwa Teruyuki

Bangkok Glass F.C.(タイプレミアリーグ)

1999年より湘南ベルマーレでプロのキャリアをスタート。その後、FC東京、セレッソ大阪を経て、2014年シーズンにバンコクグラスF.Cへ移籍。2006年ドイツワールドカップ出場。


日本代表歴のある華やかな選手たちが数多く参戦した今季のタイリーグ。セレッソ大阪からバンコク・グラスFCに加入した茂庭照幸もその一人だ。スピードと対人の強さを武器にワールドカップ出場経験も持つ日本有数のディフェンダーは、なぜタイへの移籍を選択したのか。そして、一年を戦った上でタイリーグに何を感じたのだろうか。

 

 
-まず、タイリーグへの移籍を決断した理由から教えてもらえますか。

昨シーズンは足の手術をしたのもあって、試合にあまり出られていない状況でした。もちろん今年も日本、セレッソでやって勝負するという選択肢もありましたが、自分にとっても一つ違った形で挑戦したいなと。そういう中でタイからのオファーがありました。やるからにはもちろん主力としてやりたいですが、限られた枠の中で勝負できるという環境にも魅力を感じました。自分の状況といろんなことを考えた結果、タイでの挑戦を決めました。


 
-タイからのオファーを受けて、第一印象はどうでしたか。

正直、わからない部分がたくさんありました。2年前にセレッソのキャンプでタイに来たことはあったんです。セレッソがパートナーシップ契約を結んでいるバンコク・グラスのスタジアムも使わせてもらっていましたが、住むとなるとまた別ですからね。


 
-タイからのオファーは、条件面は魅力的なものだったのでしょうか。

そうですね。ただ、物価が安いと聞いていたので日本よりも貯蓄できるだろうと安易な考えがあったんですが、それは実際には違いました。タイ人と同じ生活をすればそうなんですが、僕らは日本の物を食べるので、むしろ日本より高くつく。衣食住、特に住むところと口に入れるものは妥協したくなかったので、お金は日本以上に出ていきます。その分を考えると、だいたい日本と同じくらいの条件ですね。
 


-実際、タイリーグでここまで戦ってみて、タイサッカーのレベルについてはどう感じていますか。

最初、この人たちはみんな上手いんだな、とびっくりしたんです。個人のクオリティは、基本的に日本人と大きな差はありません。ただ、サッカーは細かい部分の連続でできていて、その細かい部分には差を感じます。結局、それが今の日本と世界の差だったり、タイと日本の差だと思います。でも、止める、蹴る、という技術はタイ人は非常にレベルが高いです。

 


 
 

-細かい部分、とはたとえばどんな点ですか。

やはり個人の戦術、グループの戦術というのが日本よりもざっくりしている気はします。たとえば日本では、自分たちがディフェンスに行っている時の長いボールやルーズボールなど、空中にあるボールに対するアプローチは一歩でも1センチでも寄せる、というのが中学生くらいから言われる常識です。でも、タイではそれが常識になっていない。ゆっくりアプローチして1対1をしましょう、という感じなので、ボールを持つ側からするとアプローチされなければコントロールもしやすいし、選択肢も増えます。逆に、その中でやれているから、個人が上手く映るのかもしれません。


 
Jリーグには「提携国枠」も新設されましたが、タイ人選手は日本でも戦力になるでしょうか。

タイ人の強みは何かと言ったら、クイックだったり球際の強さだったりだと思うので、サブとしてリズムを変えるという可能性を考えても活躍しやすいのはウインガーだと思います。たとえば、ヘディングが強いタイ人がいても、それは日本人のほうが上だと思いますから。うちのチームにも、本当に日本に連れて帰りたいと思うような若い選手がいます。スピードも体力もあってボールを持ったら何かをしますし、日本に行ったら大化けするんじゃないかと。J2、J3も含めれば、可能性はかなりあると思います。


 
-タイサッカーの欠点として「攻守の切り替えが遅い」という声をよく聞きますが、その点はどうでしょう。

切り替えが遅いのは、僕の考えではタイ人のせいではなくてタイの気候のせいです。たぶんですが、日本のチームでもタイに来て年間通してやったら、同じようになると思いますよ。切り替えが早ければ早いに越したことはないですけど、この気候の中ではたぶんガス欠になります。どんなに走れる選手でも、走りきれないと思いますね。


 
-気候の差はやはり大きいですか。

大きいと思います。たとえば今J1で首位の浦和レッズがタイリーグで戦ったら、ぶっちぎりでチャンピオンになるかと言えばわからないと思う。もちろんチャンピオンにはなれると思いますけど。実力から言ったら勝ち点20か30くらい差をつけて優勝してもおかしくないと思いますが、実際はぶっちぎりにはならないかもしれません。あのサッカーをタイでそのまましたら、やっぱりきついと思う。この気候の中で90分間コンパクトにするというのは、ほぼ不可能に近いと思いますから。逆にタイのチームがJリーグに行って、一年間やってある程度慣れる。その上で2年目はどうなるか、最下位になるかと言ったらそれもわからないと思います。個人の能力はあるので、絶対に勝てないかと言ったら、そんなことはないと思いますね。


 
-一概に欠点というわけではなくて、気候の中でつくられたスタイルでもある。

そうだと思います。日本でも春から夏にかけてはすごくクオリティが高いサッカーをしますが、夏はどうしてもクオリティが下がる。どれだけ効率よく点を取って逃げ切るか、というサッカーになりますから。タイの場合はフルシーズン、日本の夏のような気候なので。日本でも後半になれば間延びもしますし、それは一緒じゃないですかね。


 
-では、そういった気候条件も考慮した上で、タイサッカーが前進するには今後何が必要でしょうか。

たぶん、ヨーロッパや南米の監督を呼ぶ必要はないと思うんです。まずは日本や韓国など今アジアのトップでやっている国のコーチを呼ぶ。そのほうが入ってきやすい気がするんです。ブラジルはこうだから、と言われてもやっぱり人種が違うじゃないですか。アジアの国なら体の特徴も近いですし、日本で言われていることをアカデミーの世代からやっていけばもっとよくなると思います。


 
-今季はタイリーグにも5人の日本人監督がいますが、実際どのチームも結果が出ています。タイプレミアリーグだとチョンブリーFCがそうですが、違いを感じますか。

中盤からディフェンスラインにかけてのディフェンスの仕方が非常にうまいです。攻撃に関しては、強いチームにいるタイ人は他のチームよりレベルが高いので普通にやれば点は取れると思いますが、ディフェンスは個人とグループで成り立つものなので一人では止められない。対戦してみて、チョンブリーは穴がない、というのは感じました。あとはBECテロ・サーサナも組織がしっかりしていて、この2チームはタイらしくないサッカーをするなと。みんなでハードワークして、みんなでうまくサボれたりする、いいチームだと思いましたね。


 
-タイに移籍する日本人選手が急増していますが、日本の選手から相談されたら薦められるリーグですか。

僕は家族もいるので家族の意見も聞いて総合的に考えなければいけませんが、僕一人であれば、3年でも4年でもタイでできると思います。チームによってあそこはやめたほうがいい、というのはありますが、おすすめできるチームはあります。あとは、その選手がどういう選手なのか。タイはそんなにあまくないので、精神力や人間性も大事かなと思いますね。


 
-時間にルーズな文化や、その他の環境面など、特に大きな問題は感じませんか。

特にはありません。時間に関しても、うちのチームはけっこうルールが厳しいのでそんなにルーズさは感じないです。練習の1時間半前にスタジアムに来てカメラで顔をスキャンするんですが、それを忘れると罰金もあるのでみんなバッチリ来ています。練習もうちはしっかりやるほうだと思いますし。プレーに関しては差はあるのでそれに対していちいち言ってもキリがありませんから、あまり強く言うよりは自分で見せよう、というスタンスでやっています。


 
-では、日本人選手のタイリーグ移籍の流れは今後も続きそうでしょうか。

今回、僕とか代表経験者も多く来て、いろいろ契約の仕方などでも違いがあることがお互いにわかったと思います。日本の代理人も免疫がついたと思いますし、タイのクラブ側も日本の選手はこういうところも要求してくるのか、とかわかった面があると思う。これから来る日本人選手には僕らもアドバイスできますし、2、3年後に来る選手はもっといい契約の仕方になるんじゃないかと。そういう意味では、ある程度レールは引けたのかなとは思います。

<了>

Text & Photo: 本多 辰成 / Honda Tatsunari

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