2014-11-15

<プロフィール>
西 紀寛 / Nishi Norihiro
Police United FC(タイプレミアリーグ)

1999年に市立船橋高校からジュビロ磐田に入団し2011年まで在籍。その後東京ヴェルディ移籍し、2014年シーズンはタイプレミアリーグのポリスユナイテッドFCでプレー。

 
Jリーグ時代は黄金期のジュビロ磐田で主力としてプレーし、日本代表のユニフォームにも袖を通した西紀寛。日本での輝かしいキャリアを持つ選手たちが数多くタイリーグに参戦した今季だが、その中でもっとも苦しいシーズンを送ったのが西だったかもしれない。急成長の華やかな部分がクローズアップされる今のタイリーグだが、それだけではない部分も西の言葉からは見えてくる。


 
-まず、タイリーグに移籍することになった経緯からお教えてください。

去年までプレーしていた東京ヴェルディをアウトになって、まだプレーを続けたかったのでチームを探していました。タイのほうがシーズンが早く終わるのもあって、タイからの話が最初にあったんです。海外というのは考えていなかったので、最初は「タイ?」と思いましたけど特にタイに対して悪いイメージはなかったですし、基本的には勝負したいというか、チャレンジしたいタイプなので移籍を決めました。
 
-それほど迷いはなく決断したんですね?

そうですね。「じゃあ、行きます」という感じで、選ぶということはしなかったです。でも、こんなにシビアなリーグだとは思っていませんでした。こっちでカワムさん(河村崇大/TOT SC)なんかに会うと、“生きてる感”がすごいですからね。長くこっちでやっていてサバイバルに生き残っている、すごいなと思います。僕は一年で打ちひしがれましたから。
 
-どういった点がシビアでしたか。

当然、タイでは外国人枠で勝負することになりますが、うちのチームはヨーロッパ人とブラジル人との競争でした。その競争に負けたかたちですが、監督が5回も代わるなどいろいろ難しいところがありました。まず開幕の4日くらい前に監督が代って、キャンプでずっとやっていたメンバーが3人くらいしか残らない状況での開幕になったんです。それから、スポンサーの力が非常に強くて、極端に言えばスポンサーが連れてきた選手は練習をやらなくても試合に出ていたりする。でも、自分の力があればもっと試合に出られたかもしれないですし、それを言ってもしょうがないですからね。
 
-一時期は試合に出てゴールも決め、勝利に貢献していたと思います。その時期は、監督との相性が良かったんでしょうか。

開幕戦は出場できたんですが、そのあとしばらくベンチ外が続きました。チャンスが来たら頑張ろうと思ってやっていましたが、その時期にちょうどチームの調子が悪くて降格圏くらいにいて、僕も前半戦でもう一回チャンスをもらえたんです。その時にはけっこう勝って結果が出ていたんですが、そういう中で急にパーンとベンチ外にされたりする。タイのやり方なのかわからないんですけど、外される意味が全くわからないことがあるんです。
 
-意図や理由のわからない選手起用に戸惑う、というのは他の日本人選手からもよく耳にします。
 
そういう試合に限って負けたりするんで、気持ちを保つのが難しいですよね。監督との関係や相性ならいいんですが、それだけではないものがあるので難しい。5人くらい契約途中でクビになった選手もいますし、僕も夏の移籍で新しい選手が入ってきたタイミングで外されて、後半戦はノーチャンスの状況でした。
 
-環境や契約の条件面などについてはどうでしたか。
 
金銭的な条件は、僕の場合はJ2の時よりダウンです。クビになったので上がるとは全く思っていなかったですが。タイリーグの中ではいいほうだと思いますけど、日本よりは落ちますね。ただ、住むところもチームが払ってくれていますし問題はありません。
 
-所属のポリス・ユナイテッドはバンコク郊外にあるクラブですが、住居は都心ですか。
 
いえ、スタジアムのあるランシットです。スタジアムはタマサート大学という大学の敷地内にありますが、その近くにある学生寮のようなところに住んでいます。広めの2ルームの部屋で、寮ではないんですが学生がたくさん住んでいるところです。外国人選手はみんなそこに住んでいます。周辺にも店がたくさんありますし、都心にも車で40分くらいで出られますから特に不便はありません。バンコクは、生活の苦労は全くないですね。
 
-契約事項の面などで問題は?
 
うちのチームは、ビザの面などは問題があると思います。いろいろルーズなところがあるんですが、「俺たちはポリスだから大丈夫だ」と言うんです(苦笑)。日本人の感覚だと、「ポリスだからこそ、しっかりしなきゃいけないんじゃないか」と思うんですけど…。そういう文化の違いは、大きいと思いますね。
 
-タイサッカーのレベルについてはどう感じていますか。
 
個人のスキルはあると思いますよ。スピードもあるし、ボールを止める・蹴るというスキルもタイの選手たちは持っていると思います。もちろん、いろんなチームがあってたくさんの選手がいますから、この選手は上手いな、というのは限られますが全体的に能力は低くないと思います。体格的にも近い日本のようなスタイルを目指せばいいと思うんですけど、プレミアリーグの人気が高いからかイングランドのようなサッカーを目指しているように感じるんです。うちのチームは、前線のフランス人をめがけて蹴る感じで、それはそれでいいんですが、みんなで流動的に動くという意識が全くないのは問題だと思いますね。
 
-ブリーラム・ユナイテッドなど、上位のチームでも同じですか。
 
ブリーラムがどういうサッカーをしているかと言ったら、ただ「強い」というイメージしかない。たとえばバルサ(FCバルセロナ)だったらパス回し、レアル(レアル・マドリード)だったらカウンターが超すごいとか、そういうスタイルを持ったチームはタイにはないですね。
 
-全体的に戦術に対する意識が低い?
 
個人種目をやっているような感じで、「チームを作る」というイメージがないように感じます。ポジションは決まっていても、みんなで連動して動くとかみんなでディフェンスするというのが全くない。タイ人は円陣を組めばそれがチームだと思っているような気がするんですが、僕はそれは違うと思う。それも大事な部分かもしれないですけど、グラウンドの中でいかにチームのパーツとして動けるかが一番重要です。たとえばプレスをかけるにも、一人が行っても周りの選手が反応しないから効かない。僕がピッチにいれば「もうちょっとこっちに来い」とか、自分の右左と前の選手くらいだけでも連動させようという意識ではやっていましたけど、なかなか難しいですよね。指示をすれば、それに対しては文句などは言わずにやってくれるんですが。
 
-タイ人同士ではそういう要求などをしないんですね?
 
何がJリーグと違うかっていうと、タイ人同士の競争がないように見えるんです。日本は競争がなければダメだという考え方が当たり前にあるので、チーム内での競争が必ず発生する。でもタイでは、「みんな仲良く」というスタンスで競争がないように感じます。それが文化として良いか悪いかは別なんですけど、サッカーは勝負の世界なのでやっぱり良くないと思う。グラウンドの外で優しいとか思いやりがあるとかはいいんですけど、グラウンド内でもそれですから。そこが一番問題かもしれませんね。
 
-それは、プロ意識が低いということでもあるんでしょうか。
 
どうなんでしょう、文化なんじゃないですかね。「嫌われたくない」ということを彼らはよく言うんです。だから、あまり言い合ったり意見を言ったりするのを見たことがありません。外国人枠の争いは激しいんですが、タイ人同士の争いというのがないんです。
 
-その点がタイサッカーの一番の問題?
 
あとは、試合の終わらせ方なども問題があります。たとえば3-1で勝っている試合で、ラスト5分くらいで集中力が切れて1点差にされ、さらにロスタイムに入って何を思ったのか5人くらい人数をかけてカウンターに行ったんです。それでボールを奪われてゴールを決められ、3-3で終わった試合がありました。日本なら絶対にありえないことです。ロスタイムでリードしていたらゴールをから遠いところにボールを置いて勝ち点3をものにしようというのが常識ですが、それを全くしようとしない。自分がピッチにいて「キープボール!」と言っても伝わらなくて、行ってしまうんです。ロスタイムの失点もけっこう多くて、本当にもったいない。そういう意識を持つだけでも、勝ち点がかなり変わったんじゃないかと思いますね。
 
-苦しいことも多いシーズンだったようですが、タイに来て得たものはありますか。
 
今までとは全く違う環境のところに来て文化の違いを感じられたことは、絶対経験としては生きると思います。チームには日本人は一人だけで、この中では自分が異色ですからね。ただ、これでは終われないという思いがあるので、もう一年勝負したい気持ちはあります。なので、タイでもう一回チームを探すつもりです。なかったらなかったでしょうがないですが、逃げることは簡単だと思うし、それだけはしたくないと思っていますから。
 

<了>

Text & Photo: 本多 辰成 / Honda Tatsunari

 

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