2014-11-21

<プロフィール>
神戸 清雄/Kambe Sugao

Nakhon Ratchasima F.C(タイ Division-1)


現役時代は本田技研でプレー。引退後1991年から2001年までジェフユナイテッドで育成年代の指導にあたる。その後、日本サッカー協会の派遣スタッフとしてフィリピン、グアム、北マリアナ諸島など海外の代表監督を務める。2013年シーズン途中よりタイディビション-1のナコンラーチャシーマーFCを率いる。

 

昨シーズン途中からナコンラーチャシーマーFCを率いる神戸清雄監督。今季は開幕から安定した戦いを見せ、クラブを悲願のタイプレミアリーグ昇格&ディビジョン1優勝に導いた。フィリピン、グアム、北マリアナ諸島の代表監督を歴任するなど海外での指導歴も豊かな神戸監督は、タイのクラブをどのようにして前進させたのだろうか。
 

-今季は5名の日本人監督が存在したタイリーグですが、その中で唯一、神戸監督は昨季途中から指揮をとっています。ナコンラーチャシーマーFC監督就任の経緯から教えてもらえますか。

2012年にテクニカルダイレクターを務めていたジェフ千葉を退団しました。僕自身、これまでサッカー協会の派遣の仕事などいろんな形で海外の経験があったので、東南アジアや中国なども含めて仕事を探している中で、たまたまタイの話があったんです。これまで海外に出る日本の指導者は多くがJFA(日本サッカー協会)の後ろ盾のある形ですが、今回は僕個人に対してオファーが来たということでやりがいも感じました。タイはサッカーが盛んですし、日本の指導者の中では東南アジアのサッカーを知っているほうだとは思っていたので、チャレンジするべきだと思いました。

-もともとアジアが視野にあったのですね?

ありましたね。僕は40歳の時に初めてフィリピンに行きましたが(2002〜2003年・フィリピン代表監督)、「自分はアジアのことを知らなかった」というのがその時の本音でした。やっぱりアジアは広いし、サッカーが盛んだということを強く感じたんです。もちろんJリーグでやることも素晴らしいんですが、その頃から、アジアでチャレンジしたいという思いはずっと持っていました。

-タイリーグの現状については、どんなイメージを持っていましたか。

自分がどれだけ今のタイサッカーについて情報を持っていたかというと、日本人選手がたくさんプレーしているということと、あとは代表の試合からのものくらいでした。フィリピンの監督をやっていた時から、タイは東南アジアの実力者なのは間違いありませんが、現在のリーグがどれくらいのレベルなのかというのは正直、知らなかったですね。

-実際に来てみて、チームの印象はどうでしたか。

思ったよりもレベルが高いな、と思いました。もちろん、環境やプロサッカークラブとしてのあり方などJリーグに比べたらまだまだ劣っている部分はありますが、可能性も含めて「これは、けっこうやるんじゃないかな」と。このところ強くなってきたフィリピンなんかと比べても、やっぱりタイはかなり上ですからね。


-個人の能力が、思った以上に高かった?

フィリピンにいる時から、東南アジアの選手の魅力は感じていました。身体能力がある選手が多いですし、球際を逃げない。これは、日本人よりも東南アジアの選手のほうが持っているな、と常々思っていました。日本人は綺麗なサッカーは好きだけど、国民性なのか「激しさ」は足りない部分がある。その部分では、日本よりも優れているのかなと。特にタイの選手は、僕の現役時代から、すばしっこくて技術のある選手が多いというイメージがありました。

-逆に、タイサッカーに欠けているところはどういった点でしょうか。

サッカーをいかに戦うか、ブラジル人のよく言う「マリーシア(ずる賢さ)」のようなところはまだまだ必要かなとは思います。もちろん、技術や戦術の部分でもワールドカップに行くにはまだ足りないところがありますけど、そのベースは十分にあると思う。そのベースに、サッカーという90分のゲームをどう戦うかというものが加味されてくれば、もっともっと可能性があるんじゃないかと思いますね。


 

-規律の面など、日本人の特長とされる部分がタイの選手には欠けているとも言われます。やはり、ルーズな部分は感じましたか?

感じました。ただ、僕もフィリピンやグアムなどでの経験があるので、それを受け入れるだけの度量もできているつもりでした。これが初めての海外だと、やっぱり「日本のようにやりたい」と思ってしまうんですけど、それをそのまま持ち込んでしまうとダメだというのもわかっていましたから。

-そこはどういうふうに折り合いを?

就任した時にちょうど象徴的なことがありました。練習に遅れてきた選手が二人いて、グラウンドを走らせたんです。いろんな人から「あんまりそういうことをやるとタイ人はそっぽを向く」と言われたんですが、それは最初に「俺はこうやるよ」いうものを示しただけで、それをずっと続けたわけではありません。そのあとは少し引いて彼らの中に入っていったり、またガツンとやるときはやったり。そのさじ加減が大事だと思います。どこへ行ってもスポーツの世界は、やっぱり規律が大事です。規律を乱す選手はチームの中にゆるい雰囲気をもたらすので、そこはきちっと線を引かなければいけない。ただ、タイ人と日本人は違いますから、尊重するところは尊重しなければいけません。

-「尊重するところは尊重する」とは、具体的にはどういうことですか。

たとえば、タイ人は面と向かって厳しいことを言われるのを嫌うので、一人ひとり個別に呼んで話をする。もちろん良さもいっぱいあるわけですから、褒めるところは褒めます。否定ばかりしていたら、選手はこっちを向いてくれませんから。否定することもあるし褒めることもある、アメとムチをうまく使い分けないといけません。今はもう練習に遅刻する選手もいなくなりましたし、規律を守らない選手はいなくなりました。



 
-昨シーズン、昇格は逃したものの就任直後からチームの成績は上向きになりました。チーム作りは、どこから手をつけましたか。

 

特別なことは何もしていません。就任時はとにかく選手のコンディションやレベルを把握するところからでした。相手のレベルがどれくらいなのかということも含めて分析しながら、連戦が続く日程でしたのでコンディションを整えながら普通のトレーニングをしていました。ただ、この暑さですし効率よくやるということは重視して、90分以上の練習はしませんでした。その中で頭も体も使った練習をする、それが彼らには新鮮に映ったかもしれません。

 

-一般的なタイのチームは対戦相手のスカウティングなどをあまりしないと聞きますが、ナコンラーチャシーマーFCはどうでしたか。

 

あまりやっていなかったようです。でも、僕はやはり次の対戦相手の情報はほしいので、必ずビデオを撮ってこさせるようにしました。それをすぐにDVDにして渡してもらい、自分で全部見て分析をし、クリッピングを作って選手たちに伝えるということを毎試合やりました。日本なら普通はそういう専門家を置きますが、このチームにはいませんから。そういう部分も、タイの選手たちには新鮮に映ったんじゃないかと思います。

 

-就任当初はタイリーグに日本人監督はいませんでしたから、新鮮な面があったかと思います。「日本人監督」に対する選手たちの反応はどうでしたか。

 

やっぱり日本サッカーに対しては、この20年でアジアのトップクラスになったということへのリスペクトがあるのは感じました。こちらもタイの選手たちをリスペクトしながら、それに応えるものを示さなければいけない。選手たちにとっては新鮮な面はあったと思いますが、最初か特に違和感はありませんでした。


 
-就任時には日本人選手が3名所属していましたが、それもスムーズにスタートできた要因でしょうか。

もちろんコミュニケーションの面などではやりやすいですし、彼らから得られる情報も多かったです。ただ、彼らにあまり近寄り過ぎるのはいけないと思ったので、当然のことですが、彼らにはまず「日本人だからといって、特別扱いはしないよ」ということは伝えました。就任時は所属選手が20人だったので、選択肢も多くない。平等にチャンスを与えたいという思いがあったので、最初の数試合で一通り全ての選手を使いました。

-そして今季は、クラブ史上初のタイプレミアリーグ昇格とディビジョン1優勝という最高の結果を手にしました。昨季から継続したものが浸透した結果でしょうか。

出だしがうまくいって、前半戦を負けなしで行けたのがチームに自信を与えたと思います。昨季はホームでは順調に勝ち点を重ねられたんですが、アウェイで勝てなかった。今季はアウェイでいかにポイントを拾っていくかというのを課題としていましたが、前半戦で際どい試合をかなりものにできたのが大きかったと思います。クオリティの高い選手を補強できたというのもありますが、その中でチームが自信をつけて一つになれた。去年をベースにして、一つ上乗せすることができたのが結果につながったと思います。

 

-来季、チームは悲願のタイプレミアリーグを戦うことになります。

 

チームからは続投のオファーをもらっているので、せっかく昇格させたわけですからタイプレミアリーグにも挑戦してみたいと思っています。一年半やってきてベースはできましたが、しっかりとチームを分析して、相手チームも分析してさらに積み上げていかなければいけない。高い目標ですが、タイプレミアリーグでも「ベスト5」を目指したいと思っています。

<了>

Text & Photo: 本多 辰成 / Honda Tatsunari


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