2014-12-06

<プロフィール>
和田 昌裕 / Wada Masahiro
Chonburi F.C. (タイプレミアリーグ)

現役時代は松下電器、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸で活躍。現役引退後はヴィッセル神戸の育成年代からトップチームの監督、更にはクラブの副社長を歴任。2014年シーズンよりタイプレミアリーグチョンブリーFCの監督に就任。2014年タイプレミアリーグ最優秀監督賞受賞。 

今季、タイプレミアリーグのクラブとしては史上初めての日本人監督となったチョンブリーFCの和田昌裕監督。クラブ悲願のタイトルにはあと一歩届かなかったものの、「リーグ最優秀監督」に選出されるなど、タイのサッカー界に確かな足跡を残した。外国人監督として異国のトップチームを率いるという大きな挑戦のシーズンを振り返ってもらった。
 


-和田監督にとって大きなチャレンジだったと思いますが、一年を振り返って率直にどんなシーズンでしたか。

チョンブリーFCはもともと日本人が多くいるクラブなので、一年目でしたがやりやすい環境で過ごすことができました。結果は昨年よりも上回ったという部分ではよくやったかなとも思いますが、リーグ戦もカップ戦(タイFAカップ)も優勝できるチャンスがあっただけに、そこを獲れなかったのはまだまだ力不足だったと思います。
 
-リーグ戦では最後までブリーラム・ユナイテッドとの激しい優勝争いが続きました。近年のタイサッカー界でトップを走るブリーラムは、やはり手ごわかったですか。

後半戦はホームで勝つことができましたし、「めちゃめちゃ強い」という感じではありませんでした。でもやっぱり後半、ブリーラムは取りこぼしがなかったですね。うちはアウェイでの成績があまりよくなかった。最後から2試合目もアウェイでしたが、勝っていれば首位でホームでの最終節を迎えられて全然違う状況だったと思います。
 
-あえて言えば、一歩及ばなかった部分はどこでしょう?

もしかしたら、終盤戦でブリーラムを抜いて一位になった時にちょっと浮かれてしまった部分があったかもしれない。プレッシャーに負けたということは全くないんですが、逆に、ちょっと安心してしまったような雰囲気があったかもしれません。
 
-後半戦はわずか1敗とチームは好調でした。和田監督のサッカーが徐々に浸透してきた結果でしょうか。

それもありますが、前半戦は最初の10試合くらいでブラジル人のエースストライカーが怪我をしたのが大きかったです。うちにとっては替えのきかない選手でしたからその2ヶ月くらいが一番きつい時期で、そこで3敗くらいしてしまった。後ろはある程度選手が揃っていて失点も少ないほうでしたが、攻撃のところはやっぱり個人の能力がないと点は取れないので。
 
-怪我といえば、優勝のかかった最後の数試合では不動のボランチである櫛田一斗選手を欠く事態となりました。

あれも正直、痛かったです。彼もやっぱり替えのきかない選手の一人なので。実際、彼が最後までいたら優勝できたかといえばそれはわかりませんが、彼の怪我は痛かったのは事実です。ただ、それはどのチームも一緒ですから、もちろん言い訳にはできませんが。
 

-就任直後にタイサッカーの印象として、「切り替えが遅い」ということを言われていました。その点は、この一年で改善できましたか。

昨年までもポゼッションはしっかりしたチームでしたので、そこに守備の意識と切り替えの部分を加えたいと。そこのところは練習で常に伝えながらやってきて、成果は出たと思います。プレーだけでなく練習でも次のメニューに移るまでにダラっとしたものがあったんですが、そこもできるだけスムーズにするように仕向けて、だいぶ意識は変わったと思います。
 
-よく言われる「時間の感覚」の面でも変化があったわけですね。

時間に関してもかなり言ってきたので、完璧とは言えませんが変わったと思います。文化が違うので最初はいくら言っても変わらないかなという気もしていたんですが、思った以上に改善しました。時間を守らない選手は試合に使わない、ということを徹底したので、「この監督は本当に試合に出さない」ということで意識が変わったんだと思います。実際、リーグ開幕前のACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)プレーオフの初戦で、主力選手を使わなかったんです。これは賭けでしたが、先のことも考えて実行しました。幸い勝つことができたのでよかったですが、負けていればその後も全く違う結果になっていたかもしれません。結果が出なければ選手はついてきませんから。


 
 

-そういった厳しい姿勢に対して、タイの選手の反応はどうでしたか。

最初は言い訳とかしていましたが、だんだん謝るようになってきて、練習に遅刻する時は必ず連絡が入るようになったり変化が出てきました。こちらの日系企業の方なんかと話しても遅刻や無断欠席などが多くて悩んでいるようですが、うちのチームは変わりましたね。
 
-何かコツのようなものがあったんでしょうか。

まずは、公平に見るというのが前提だと思います。会社なんかでも、戦力になる人はどうしても甘く見てしまうんじゃないかと思うんです。サッカーの場合であれば、主力の外国人選手とかですね。僕は一切そういうことはしなかった。どんな選手でも勝手に休んだり遅刻したりすれば試合には使いませんでした。そこだけはブレなかったので、選手たちも正面を見てくれたんだと思います。平等というのは難しいですけど、すごく大事なことだと思うので。
 
-日本とタイで、選手の気質の違いというのは感じましたか。

タイ人の選手は、何回もミスをしたりすると弱気になってやる気がなくなってしまい、ハーフタイムに帰ってきた時に「ちょっと無理なんで、交代させてください」と言う選手がけっこういるんです。怪我などであればわかりますが、気持ちが折れて、というのは日本では考えられません。責任感とか使命感とか、そういうのが薄いかなという感じはしました。あとは、試合前のロッカールームの雰囲気なんかも日本とは違って、どんな試合でもリラックスしている。でも、試合にはしっかり切り替えて入れるんですね。逆にそこは変える必要はないと思いましたし、違っていい部分だと思っています。
 


 

-もう一つ、日本との違いとして一年中暑いタイの気候も気にされていました。その点は、実際に一シーズンを戦ってみてどうでしたか。

2ヶ月くらいしてからですかね、あまり気にならなくなりました。この暑さの中で毎週試合をするとなると体力的に厳しくなるなと思いながらも、戦術を変えたわけでもありません。うちの選手たちは本当によく走ってくれました。他のチームは後半の途中から足をつったりするんですが、うちの選手はつりませんでしたから。
 
-それは、コンディショニングの面で気を使った結果ですか。

練習の中でのコンディションニングはうまくいったと思います。今年はフィジカルコーチがいなかったので、コーチと、それからトレーナーにも現場に出てもらって三人で相談しながらやってきました。去年までは練習時間も長かったようなんですが、集中して短い時間で終わらせるようにしました。ウォーミングアップに20〜30分かけて、実際のトレーニングは1時間くらいです。現場でのコンディション作りがしっかりできた成果で、この暑さの中でも90分走れたのかなと思います。
 
-タイの気候の中では日本のような走るサッカーは難しい、という意見もありますが。

戦い方にもよると思いますが、コンディションを整えれば可能だと思いますよ。うちは本当にチームで戦いましたから、そういうサッカーでは特に、どれだけボールを大事にできるかが重要になります。簡単にボールを失ったら、また追いかけないといけない。その繰り返しでは続きませんから。暑さに加えて一ヶ月に9試合という月もあるようなハードスケジュールだったので選手は大変だったと思いますが、その中でメンバーも入れ替えながら乗り切ることができました。
 
-他チームも含め、タイサッカーのレベルについてはどう感じましたか。

個人のポテンシャルはすごく高いものを感じました。日本のJ1でも通用する可能性のある選手はいっぱいいると思います。リーグ自体もサポーターがたくさん入って盛り上がるし、そういう面でも日本よりも伸びしろを感じます。ホームとアウェイでの違いというのも、すごいものがありました。盛り上がり方が異常で、ブーイングなんかもすごいですし、アウェイでは本当にやりづらかった。特にリードされた時は、ちょっときついな、というのを感じていました。
 


 

-では逆に、タイサッカーがさらに成長するために必要なことはなんでしょう?

レフェリーの問題などで、毎試合フェアな試合はできていないというのはすごく感じました。レフェリーのジャッジに関しては不満を言ってもマイナスにしかなりませんから、会見などでは一切口にしたことはありません。試合でも「それ以外にチャンスがあったわけだから、そこで取っておけば何の問題もなかった」という考え方でやっていましたが、実際に疑問を感じる判定が多かったのは事実です。あとは、うちは現場のことは全て僕に任せてくれているのでやりやすかったんですが、オーナーが現場に降りてきて監督の意見だけでは決められないクラブもたくさんあると聞きます。そういう問題点が改善されていけばタイのサッカーはもっと発展すると思いますし、レベルも上がると思います。
 
-家庭の事情で今期限りでの退団が発表されていますが、退団時のメッセージの中には「機会があればまたチョンブリーFCに戻ってきたい」という文言がありました。ここに込められた思いを、最後に聞かせてください。

去年まで前監督が3年間かけて作ってきたチームに少しずつ自分の求めるサッカーを加えていこうとした中で、今年それができたかと言えばできていません。自分のやりたいサッカーにまだ十分にはなっていない。もう一年やればもうちょっと自分の色が出せたような気がするので、そういう意味では自分としても少し残念な気持ちがありますし、クラブにも申し訳ないという気持ちでいっぱいです。

 

<了>

Text & Photo: 本多 辰成 &Chonburi F.C.

 

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小倉 敦夫 日本化を進めるタイ・プレミアリーグのチョンブリーFC。クラブの日本化はピッチ内だけでなく、ピッチの外でもこの男によって進められている。


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