2014-12-13

<プロフィール>
黒部 光昭 / Kurobe Teruaki
TTM Customs F.C. (タイDivision-1)

2000年に福岡大学から当時J1の京都パープルサンガに入団。2003年には日本代表に初選出され、ウルグアイ戦で代表デビュー。2005年、京都を退団後、セレッソ大阪、浦和レッズ、千葉、アビスパ福岡、カターレ富山でプレー。2014年シーズンよりタイDivision-1のTTMカスタムズFCに所属。

京都サンガ、浦和レッズなど、Jリーグの第一線で長く活躍してきたベテランフォワードの黒部光昭。今季タイリーグでプレーした日本代表経験者の一人だが、その中で唯一、ディビジョン1(2部リーグ)のクラブに所属した。黒部はなぜタイの2部リーグで戦うこととなり、そこでどんなシーズンを送ったのだろう。
 


-まずは、タイリーグへ移籍した経緯から教えてください。

去年までJリーグでプレーしてきて、昨シーズン後にも現役を続ける可能性を考えてトライアウトを受けたりしていました。その時にエージェントから「タイに興味はありますか」と声をかけられたのがきっかけでした。現役を続けるなら次が最後になるかなという思いもありましたし、正直、36歳のフォワードをほしいというクラブがあるのかというのもあったんですが、可能性があるなら、ということでトライすることにしました。年が明けて、1月の8日くらいに初めてタイに来ました。
 
-今季所属したTTMカスタムズFC(以下TTM)から直接オファーがあったのですか。

いえ、違います。いろいろなチームのトライアウトに参加する形でした。ただ、自分は4、5人くらいの選手が練習に参加して、どれくらいできるのかを判断するようなトライアウトだと思っていたんですが、実際には30〜40人くらいの選手がいてゲームをする形でした。正直、イメージとあまりにも違ったので、一度はやめて帰ることに決めたんです。そうしたら、帰国の前日くらいに現地のアフリカ人のエージェントから連絡をもらって、もう帰るつもりだったので最初は断ったんですが、「何回かだけチャンスをくれ」と言われて。結果的には、そのエージェントがもってきた話の一つがTTMでした。
 
TTMはディビジョン1のクラブですが抵抗はありませんでしたか。

自分の条件は二つだけでした。一つはバンコク近郊のクラブであること、もう一つは年俸が去年のカターレ富山と変わらないレベルであること。この二つを叶えてくれるならばタイでプレーします、というのを最初からはっきり伝えていたんです。この年齢でサッカーができるのであれば、僕にとっては1部か2部かというのはどうでもいいことでした。TTMはディビジョン1ですが、練習場は都心ですしスタジアムもバンコク近郊です。金銭面の条件もクリアしていたので契約に至りました。
 
-バンコク近郊という条件はなぜですか。

やっぱり環境の面ですね。自分自身、タイは全く初めての国でしたし、田舎に行けば行くほど食事面などでもいろいろ問題は出てくると思いますから。サッカーを続けるということは、マイナス面もいろいろとあります。だから、サッカーをやりたいという気持ちをそのマイナス面が上回るならやるべきじゃないと思っているんです。そういう意味で、可能性があるならバンコクだろうと。
 
-実際に来てみて、バンコクの環境はどうでしたか。

生活をする上では、日本人にとってこれほど住みやすいところはありませんよね。ここで住めないという日本人は、他のどの国に行っても住めないだろうと思うくらいの環境ですから。ただ、僕はこれまで体にはものすごく気を使ってやってきたので、できないことはとても多いです。たとえば、水にもこだわりがあって十数年間同じ水を毎日2リットル飲み続けてきたんですが、その水がバンコクでは手に入らない。あとは酸素カプセルを自分で持っているんですが、それも電圧が違って壊れてしまうかもしれないので持ってこられなかった。やはり海外ということで、できないことはありますね。
 
-サッカーの面に関しては、どんな印象を持ちましたか。

レベルが高いとか低いとかいうよりも、まずはサッカーを知らないというのが印象ですね。僕らが子供の頃に教わった本当にベーシックなこと、たとえば「相手とゴールのライン上に立つのがディフェンスの基本です」みたいなことを、そういう言葉では教わっていないのかなと。タイにもいい選手はたくさんいると思いますが、そういう選手も教わったわけではなくて、センスがいいから自分で感じてやっていることが結果的にその「基本」のところに行っているだけ、という感じがするんです。
 
-そういう面は、普段のトレーニングから感じることなんでしょうか。

そうですね。うちのチームは珍しく外国人も入れ替わらずに同じメンバーでやってきたんですが、10ヶ月も一緒にやっていてもチームメイトの特徴を考えた上でのプレーができない。それはサッカーを知識としてわかっていないからだと思うんです。たとえば僕は年齢も36歳ですし、もともとポストプレーヤーでもあるので裏へパスを出されても厳しい。足元にくれればボールを収めることが出来るし、チャンスメイクも出来るので、「足元にくれ」ということを伝えても、それを忘れてしまうのか自分のリズムでポーンと裏に蹴ってしまうんです。チームというのは時間をかけてより良いものを作っていくものだと思いますが、チーム力も最初から最後まで全く変わらなかったという印象です。
 
-黒部選手がいくら言っても伝わらない?

実はシーズンの途中からボランチをやっていたんですが、ボランチをするようになってから少し変わりました。フォワードにいても雑なボールしか入ってこなくて、それでは僕のようなタイプは仕事ができない。だったら自分で「こういうパスを出したら次の選手がやりやすい」というのを示したほうが早いんじゃないかと思って、前期の終わりくらいからボランチをやっているんです。フォワードにいて「なんでいいボールくれないんだよ」というスタンスでいても、僕の感覚では全くタイの選手には響かない。自分がボランチのポジションでやって見せることで他の選手に言える権利が得られる、という感じですね。
 
-ボランチでのプレーは、自分から希望したんですか。

ちょっときっかけはあったんですが、自分で希望しました。ある試合で土砂降りのために蹴り合いになった時に僕が全部ヘディングでクリアしているのを見て、チーム内で「中盤に置くのも面白いんじゃないか」という声が出た時があって。その時はそれで終わったんですが、その後自分から「一試合だけボランチをやらせてください」と申し出ました。その試合で勝ったことでチーム側も「行ける」となって、自分でも手応えはあったのでそれが定着したんです。もちろんこれまでボランチをやったことはなかったですけど、基本的にはポストプレーをする場所が下がっただけという感覚でそんなに違和感はありません。むしろプレッシャーがない分、逆にプレーしやすいくらいです。
 
-ある意味で、タイならではの経験ですね。

ほんと、そうですね。タイじゃなければこういうことってなかったと思うし、そういう意味では今はすごく来てよかったなと思っています。今年で37歳なので、あと何年できるかわかりません。今年でやめるのか、来年なのか、気がついたら40過ぎてもやっているのかわかりませんけど、いつどうなるかわからない世界なので基本的には目先の一試合を最後だと思ってやっています。その中で、ずっとフォワードの視界でしかサッカーをしていなかったのが、点を取ること以外にもサッカーの喜び方、楽しみ方というのがあるんだなというのを味わえたのはよかったと思います。
 
-黒部選手がボランチをやるようになって、タイ人のチームメイトに何か変化が見られますか。

なかなか難しいですが、自分の言っている言葉に説得力がついたのは収穫だと思います。クビになるのを覚悟で、当初からけっこうタイ人の選手を怒鳴りつけたりもしてきたんです。監督に止められることもありましたが、「僕は怒ります、それは変えません」とはっきり伝えました。ただ、僕が怒っているのはタイの選手を馬鹿にしたり卑下したりしているのではなくて、プロである以上、練習から100%でやろうということで中途半端にやっているやつには怒ります、という説明もして。もし言い過ぎている時は監督が止めてください、ということで一応OKはもらっているんです。響く選手、響かない選手といますが、響く選手はすごく考えてくれるし、わかってくれます。
 
-タイサッカー全体として、今後さらに成長するためには何が必要だと思いますか。

大きいかなと思うものが3つくらいあるんですが、一つはやはり指導者の指導力。今はきちんと教えられていないと思うので、もっと噛み砕いて教えていくことで選手は育つと思います。二つ目は審判の質を上げること。アンフェアなことがされているということも言われますが、そういう状態になっている時点で絶対にレベルは上がらないと思いますから。もう一つは僕の見解なんですが、レッドカードに対する処分が甘すぎる。タイでは殴り合いとか、えげつない行為での退場がけっこうあるんですが、出場停止は1試合のみ。3試合とか5試合とか、ひどい時は10試合とかにするべきだと思うんです。ああいう行為がまかり通っていること自体が納得できないですし、サッカーをしている人間として恥ずかしい、ということを分からせなければいけないと思います。
 
-指導者の指導力という点については、今季は日本人監督の活躍が目立ちました。ディビジョン1では神戸清雄監督のナコンラーチャシーマーFCが優勝しましたが、他チームとの違いを感じましたか。

正直、あのチームはディビジョン1ではダントツですよ。外国人の差ではなくて、結局タイ人がベーシックなサッカーを知っているかどうかというところに差を感じます。もともと選手の質も良かったのかもしれないですけど、神戸さんのやっているトレーニングも絶対に他チームと違うと思います。たとえば攻守の切り替えを速くしたければそういうトレーニングがあって、それを毎日やっていれば言葉で言わなくても必然的にできるようになる。結局、そういうことだと思います。ナコンラーチャシーマーFCは、プレミア(1部リーグ)でも普通に真ん中以上に行けると思いますよ。
 
-今後、タイ人の選手がJリーグで活躍する可能性はあると思いますか。

あると思いますよ。ポテンシャルだけ見れば、すごくいい選手はたくさんいるので。今年のアジア大会でもタイは4位に入りましたし、その中でもいい選手がいるなあ、と思いました。特に若い選手は、比較的サッカーを知っているような気がします。指導者にも恵まれてきているのかなと思いますね。Jリーグで興味を持つところはあると思いますけど、ビジネスの面で言えば、タイ人を受け入れるとすると通訳を雇わなければいけない。その上で、韓国人などもいる中でアジア枠にタイ人をチョイスするかどうか。タイのスポンサーがつくとか、きっかけはなんでもいいと思うので、そこがクリアされれば活躍できる可能性は十分あると思います。
 
-最後に、今後のサッカー人生の展望を教えてください。

選手はいずれ必ずやめなければいけません。先のことをそんなに見られる年齢でもないですが、選手を続けられるなら、チームメイトに自分と一緒にやったことで何かを感じ取ってもらえるような選手でありたいと思っています。それから、一生懸命やるのはもちろんですけど、楽しくサッカーをしたい。今年はボランチをやったことで「楽しい」という言葉が出せました。正直、この年になって18歳や19歳の選手と同じことをやるのはしんどいですけど、それを差し引いても楽しいと言えるのは幸せなことだと思っています。


<了>
Text & Photo: 本多 辰成 / Honda Tatsunari

 

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