2015-01-29

<プロフィール>

ブンポン・ナッタポン

Muangthong United F.C. 日本語通訳

 

2009年、財前宣之氏のタイプレミアリーグ・ムアントン・ユナイテッドへの入団を機に日本語通訳となる。通訳の傍らジュビロ磐田との提携に関する業務など多岐に渡って担当。今季はムアントン・ユナイテッドに入団した青山直晃選手の通訳を担当。サッカー業務の他に、日本語学習サイト www.j-doradic.com を運営。


タイプレミアリーグのムアントン・ユナイテッドで日本語通訳を担当するなど、日本とタイのサッカーをつなぐ仕事に携わるブンポン・ナッタポン(ナット)氏。かつては財前宣之氏の専属通訳として活躍、今季からは青山直晃選手を担当する。タイ側から見た日本人選手の印象や評価など、タイクラブに関わるタイ人ならではの興味深い視点で語ってもらった。


-財前宣之さんがムアントン・ユナイテッドに所属していた時に専属通訳をされていたということですが、それ以前からクラブのスタッフだったのですか。

もともとはムアントン・ユナイテッドのファンだったんです。ティラシン・デンダー選手が大好きで2008年からファンになったんですが、年間チケットを買うくらい熱心に応援していました。2009年のシーズンが終わったときに、ムアントンが日本人選手を獲ったという情報があって、いろいろ調べたら財前という日本でけっこう知られた選手だということがわかったんです。自分は日本語ができてサッカーも小さい頃からしていて大好きなので、彼の情報をタイ人向けにブログなどで発信していたんです。
 
-そこからどういう経緯で通訳に?

ムアントンのファンが運営しているチームの情報サイトがあったんですが、そのサイトで財前さんの取材をしたいから助けてほしいという話があって。それで実際に通訳として取材の手伝いをしたところ、その時に財前さんが直接僕に対して、「サッカーもわかるし、日本語もできる。通訳として一緒に働かないか」と言ってくれたんです。その後、チームから直接連絡をもらって、通訳として働くことになりました。

-それは、ファンとしては夢のような展開ですね。それにしても本当に日本語が上手ですが、どうやって習得したんですか。

小学校4年くらいから自分で日本語の本を買って勉強していたんです。きっかけはファミコンだったんですが、ゲームを途中から続けるためには日本語のパスワードを覚えなければいけない。それを間違えてしまったという事件があって、それでひらがなとカタカナを必死で覚えたんです(笑)。当時は、日本のゲームは日本語版しかなかったので。そこから日本語の専門のある高校に進んで、大学でも日本語学科で勉強しました。

-その日本語力と好きなサッカーが合わさって、今の仕事につながっているわけですね。現在は、どういう立場でどんな仕事をしているんですか。

去年まではムアントン・ユナイテッドを運営しているサイアム・スポーツの関連会社の社員として働いていました。ジュビロ磐田との提携に関する仕事や、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)に出場した時には浦和レッズと同じグループだったので日本での試合には帯同したりもしました。あとは、日本の雑誌のタイ語版を作っている会社でもあるのでその契約の交渉など、サッカー以外の仕事もたくさんあります。日本語の学習サイトの運営など自分でやっている仕事もあって、いろいろとやりたいことがあるので、今年からはフリーランスの形で関わっているんです。ムアントンからは日本人選手が来た時はまた専属通訳をしてもらいたい、ということも言われています。

-ムアントンは財前さん以降、日本人選手が所属していませんよね?(注:取材後、ムアントンは日本人DFの青山直晃を獲得)

そうですね。でも去年、BECテロ・サーサナで活躍した岩政(大樹)選手がタイリーグでものすごい評価をされたこともあって、日本人のディフェンダーをほしいという動きは出てきていますね。

-やはり、岩政選手の評価はそれほど高いんですか。

ヤバいくらいですよ、マスコミやファンの声もちょっとこれまで感じたことのないようなレベルです。たった一年ですが、これまでの日本人選手の中で最高の評価をされたと言っていいと思いますね。

-岩政選手の何がそこまでタイ人の心を掴んだんでしょう?

BECテロは昔は強かったんですが、ここ5、6年は優勝候補にも入らないチームになってしまっていました。それが岩政選手が入ってきて、いきなり優勝争いをしてタイトル(リーグカップ)も獲った。ディフェンダーなのでディフェンスの能力はもちろんですが、ものすごくヘディングが強くてゴールも決めましたよね。特にアディショナルタイムや大事な時にゴールを決めたというのも、ファンの印象に残ったんじゃないかと思います。

-タイのサッカーファンの中にも、岩政選手がBECテロを変えた、という認識があるんでしょうか。

ありますね。リーダーシップのある彼の力でBECテロが変わった、強くなった、というのはファンの間でも話題になっていますから。それから、彼と一緒にやっていたBECテロの若いディフェンダー三人が、みんな今、代表のレギュラーとして活躍するようになったんです。それまでは、ユース年代では代表に入っていましたが、そこまで知られた選手ではなかった。それがびっくりするくらい成長して、去年のアジア大会でもスズキカップ(東南アジア選手権)でも、彼らの活躍がすごく大きかったんです。それも岩政選手の影響、というのがけっこう共通認識になっています。

-そこまでの評価とは知りませんでした。では、タイリーグ全体にさらに日本人選手を求める空気が高まっている感じですか。

岩政選手の影響で、彼のようなディフェンダーをほしがっているチームは本当に多いです。ただ、外国人枠が7人から5人に減ることもあって、日本人選手の数は減ると思いますが。正直、日本人選手はサラリーも高いですし、契約に関して条件もいろいろと細かく言ってくるので獲りづらいという面もあるんです。日本サッカーを見習いたいという気持ちはありますし、もともと日本人は規律がしっかりしているといういいイメージもあるので、もちろんいい選手ならば獲りたい。でも一方で、同じレベルなら韓国人選手の方が安いし、契約に関しても“うるさくない”から獲りやすいというのは正直あると思いますね。それから、監督に関しては、日本人は英語ができないというのもネックになっていると思います。

-なるほど、両面があるわけですね。「規律」という言葉がでましたが、やはりそこが日本人に求めるところですか。

そうですね。そこがタイに欠けているところという意識はありますし、変えたいという気持ちはあるんです。インターネットでも、「日本人のいいマナー」や「日本の秩序」について紹介されているサイトがたくさんありますし、サッカーに限らず「日本を見習おう」というのは昔からありますから。

-サッカーでもこの20年でアジアのトップになった日本から学ぼう、という感じですか。

はい。30年前はタイのほうが強いくらいだったのが、日本は頑張ってワールドカップに行ける国になった。すごく弱かったのが本気で頑張って成功した、という一番いい例ですから。タイも本気で頑張って日本のようになろう、と。不思議なことに「韓国のようになろう」とは誰も言わないんですね、やっぱり「日本のようになろう」「日本を見習おう」なんです。

-タイも昨年のアジア大会ベスト4、東南アジア選手権優勝によって今、代表熱が盛り上がっていますよね。

シャプイ(スパンブリーFC)という人気選手も出てきて、本当に盛り上がっていますね。今代表の監督をしている“ジーコ(キャティサック)”が現役の時のタイ代表が「ドリームチーム」と呼ばれていたんですが、今の代表もいい選手が揃っていて「ドリームチーム2」と呼ばれているんです。若くていい選手が多いんですが、最後まで走れるし、今までの代表よりも規律もしっかりしているというのがタイのファンにも受け入れられています。久しぶりに期待させてくれる代表チームですね。

-今年はロシアW杯のアジア予選も始まりますから、いい流れをつないでほしいですよね。

いやあ、本当に頑張ってほしいですね。「もしかしたらタイも頑張ればワールドカップに行けるのかな」という雰囲気が、今少し出てきていると思いますから。

-タイサッカーが盛り上がり、日本との交流も盛んになる中で、ナットさんもますます活躍の幅が広がっていきそうですね。

これからはフリーランスの立場になるので、いろいろ頑張りたいですね。僕がやることは必ず日本と関係のあることになると思うので、タイサッカーと日本サッカーをつなげる仕事をしていけたらと思っています。

<了>

Text & Photo: 本多 辰成 / Honda Tatsunari



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