2015-06-27

<プロフィール>
斉藤 泰一郎 / Saito Taiichiro
Samurai Pte Ltd ・ Global Football Academy (シンガポール・カンボジア)

99年、シンガポールリーグ初の日本人選手としても活躍。2008年現役引退後、シンガポールでSamurai Pte Ltdを設立。またカンボジアで
Global Football Academyを設立し、アジア各国でサッカー&スポーツ事業に取り組む。

シンガポールとカンボジアを拠点に東南アジア全域でサッカー事業を展開する斉藤泰一郎氏。現役時代は、アジアでプレーする日本人選手がまだ皆無に等しかった1999年に海を渡り、シンガポールリーグ初の日本人選手としても活躍した。激しい勢いで伸びる東南アジアサッカー界の現状と、そこから見える日本サッカーについても語ってもらった。
 
-現役時代は、「シンガポールリーグ初の日本人選手」だったそうですね。

そうですね。1999年、23歳の時からシンガポールリーグでプレーしていましたから。そこから、今の東南アジアでのサッカーの仕事につながっていった形です。
 
1999年というとまだ、日本人選手がアジアのリーグに移籍するという事例はほとんどなかったかと思いますが。

皆無でしたね。「いなかった」と言っても過言ではないかと思います。当時、日本人選手で有名だったのは三浦知良選手だったので、最初はチームメイトから「カズ」と呼ばれました。ちょっと嬉しくもあったんですけど、僕は下の名前が泰一郎なので、「『カズ』もいいんだけど、『タイ』と呼んでくれ」という感じで。その後、中田英寿選手が有名になって冗談半分で「ヒデ」と呼ばれたり。そういう時代でしたね。
 
-シンガポールに渡ったのが23歳の時ということですが、大学を出てすぐという形ですか?

はい。早稲田大学のア式蹴球部でやっていました。部員が70名ちかくおり僕自身はベンチ入りもできず下のほうのチームでプレーしていたのですが、二つ上の代で日本代表になった斉藤俊秀さんをはじめ、Jリーグで活躍していく選手達もおられるレベルの高い環境でした。体育会だと就職も声がかかりやすくて、実際に話があったのですが、少しでもサッカーをしたいという気持ちがありまして。そんな時に、たまたまシンガポールで仕事をしていた友人の叔父を通してシンガポールリーグの話が来ました。実は子供の頃に父親の仕事の関係でシンガポールに住んでいたことがあったので、勝手に運命を感じてトライアウトを受けに行くことにしたんです。
 
-それで、すんなり入団する運びになったのですか?

そうですね、練習参加をして契約をいただきました。ただ一年目にすぐ、ヒザを怪我してしまいまして。いろんなドクターに診てもらったんですが、せっかくプロになれたのにもう引退か、という感じで。一度日本に戻って、外資系のIT企業で営業職をしていました。でも、2年くらいするとヒザも治ってきて、会社が終わって夜中に走っている時にワッと何かが舞い降りてきて、「これはもう、選手復帰するしかない」という気になったんです。それでまた、シンガポールに戻ってプレーすることになりました。
 
-同じチームに復帰したのですか?

別のチームでした。最初に入ったのはテセソン・カルサ・ローバーズというチームで、復帰したのはSRC(Singapore Recreation Club)というクラブです。シンガポールではフォワードをやっていまして、大活躍したわけではないですが、2、3試合に1点取るくらいの普通の選手という感じでした。
 
その後、2部リーグのマウントバッテンというチームに移籍したんですが、その頃には年齢も30歳になって契約内容もサッカーだけではやっていけない状況で。でもサッカーがしたかったので、空いている時間にアルバイト的に他の会社で働かせてもらいながらプレーを続けていました。その会社の社長さんが「頑張っているから」と給料を上げてくれたりもして良くも悪くも生活が安定してきてしまったので、ちょっとこのままではまずいと危機感を感じるようになりまして。今このくらいだと5年後、10年後はこのくらいかな、と想像できてしまった自分が嫌だったんです。
 
それで、元チームメイトにガーナ代表の選手がいたので、そのつながりでガーナにトライアウトを受けに行くことにしました。ガーナなら自分を壊せるだろう、と。ガーナではチームに所属することにはなったんですが、契約の問題でリーグが始まっても試合には出られない状態が7ヶ月ほど続きました。さすがアフリカだな、という感じでしたね(笑)。
 
このままでは終わりたくないと思って、次の年はオーストラリアの州リーグに移籍して1シーズンプレーしました。その時点でもう32歳だったんですが、「もう一回どこかでやりたい」という気持ちが出てきて、今度は南米のボリビアに行ったんです。そこでは2部リーグのクラブから声がかかったんですが、給料が安くてバイトをしなければいけない待遇で。そこでまた自分の中に降りてきたものがあって、「別の形でサッカーに関わるのもありなのかな」と。
 
-ものすごくエネルギッシュな展開ですね。それで現役を引退して、現在の事業を始めたのですね?

引退した翌年の2009年に、まずシンガポールで仲間たちと『サムライプライベートリミテッド』という会社を立ち上げました。
 
-シンガポールでは、どんな事業を展開されているのですか?

U4(4歳以下)から高校生までのサッカーアカデミー、それからサッカー大会の運営、フットサル事業、プロ選手のトライアウトのコーディネートなどです。最近ではプロチームの運営もしています。GFAスポルティング・ウェストレイクという2部のアマチュアチームは保有していまして、ホウガン・ユナイテッドというSリーグ(1部)のクラブとはパートナーシップ契約を結んで練習現場やマーケティングの一部を手伝っています。
 
-将来的にはSリーグのクラブも保有するお考えですか?

はい。そのために、4歳以下から積み上げて行ってプロチームを持ちたいと思っています。国内リーグで優勝して、アジアの大会でJリーグと戦って勝ちたいですね。
 
-現在、二つのチームに関わっているのはなぜですか?

「外様」がいきなり1部のクラブを保有することは難しいんです。最初は2部リーグのあるチームと提携をして、私も監督を務めリーグ戦を3位で終えることができました。そして、2年目の去年は別のチームを買収し、ここには我々のスタッフが強化とかマーケティングにも入って2部リーグで優勝を果たすことができました。でも、残念ながらシンガポールリーグでは昇格、降格という入れ替えがないんです。せっかく2部リーグで2年間やって優勝もしたのに、そのノウハウをつなげられないのは残念なので、2部のチームは保有したまま1部のクラブにも関わるという形を取りました。
 
-カンボジアでも活動をされているということですが、こちらはどういった事業なのですか?

カンボジアでは『GFA(Global Football Academy)Soriya』という会社を立ち上げて、今は主にサッカーアカデミーを運営しています。きっかけはカンボジアリーグでプレーしている太田(敬人)との出会いなんですが、彼がシンガポールリーグにトライアウトを受けに来た時に知り合っていたんです。その後、彼がカンボジアでプレーするとなった時に連絡をくれて、サッカーアカデミーをカンボジアでやりたいということで。それじゃあ一緒にやろうか、となったのが始まりでした。彼がアカデミーのマスターコーチとして、プノンペンに駐在している日本人の子供を中心に指導しています。
 
シンガポールと違う点としてはスポーツマーケティング、僕らは「サッカーマーケティング」という言い方をしているのですが、そこにも力を入れています。サッカーというのはすごくパワーのあるコンテンツなので、それをツールとして日系企業さんがサービスやプロダクトを宣伝していく。たとえばカンボジアではバイクのシェアをのばしたいヤマハさんと、購買層の一歩手前のマーケットへのアプローチとして、プノンペンに次いで人口の多いバッタンバンという都市で小学校を通算で74校まわって「ヤマハ」の名前でサッカースクールを開いています。それをもう3年やっているのですが、実際、その地域ではヤマハの認知度があがってきています。
 
-今、サッカーの世界でも東南アジアの成長はすごいものがあります。斉藤さんの事業にとっても追い風が吹いている状況ではないですか?

各国の現場を見て回っていても、投資の仕方や本気度などが半端ではないですからね。ミャンマーもぐんぐん来ていますし、インドネシアも本気を出したらすごいでしょうし、ラオスもいろいろと話を聞きます。一番危機感を感じてほしいのは日本です。東南アジアにひっくり返される可能性は、普通にあると思いますよ。
 
-日本は今、何をすべきでしょうか?

これだとはっきり言えるものはないんですが、僭越ながらアドバイス的なことがあるとすれば、もっともっとたくさんの人が出てきて東南アジアの育成を体感したほうがいいと思いますね。たとえば、ミャンマーのこんな町並みの中にこんなすごいサッカー施設を作っちゃうの? とか、気付きは絶対にあると思いますから。
 
日本は「Jリーグ100年構想」でプラットフォームが出来て、ワールドカップに出るレベルにはすぐに上がった。でも今、東南アジアの国もそこまでは来ようとしていますから、そこを早めに抜け出さないと沈んでいく船になってしまう可能性もあると思います。新しい気付きなのか、仕組みなのかが必要だと感じています。



<了>

Text & Photo:本多辰成




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