2015-09-13

<プロフィール>
井上 卓也 / Inoue Takuya
U-18シンガポール代表監督

大阪体育大学を経てドイツに留学。帰国後はジェフユナイテッド、ブランメル仙台、大宮アルディージャにて指導者のキャリアを積む。2015年よりU-18シンガポール代表監督に就任。

昨今、多くの日本人選手がアジアを舞台に戦うようになったが、ここ数年で日本人指導者のアジア進出も増え始めている。今年からU-18シンガポール代表監督を務めている井上卓也氏もそのひとりだ。長くJリーグで指導をした後、どんな思いがあってアジアでの挑戦を決意したのか。そして、アジアの国々は日本人指導者に何を求めているのだろうか。
 
U-18シンガポール代表監督に就任された経緯から教えてください。

知人を通してシンガポールサッカー協会で指導者を探しているという話を聞いて、こちらから履歴書を送った形です。昨年の12月にスカイプを通して面接をして、就任することになりました。
 
-昨年までは大宮アルディージャで指導をされていましたが、シンガポールでの挑戦にはどんな思いがあったのでしょう?

僕は学生の時にドイツに留学していたのですが、そこで経験を積んで日本に戻ってからは20年くらいJリーグで仕事をさせてもらいました。日本での契約が切れて、そのまま日本で仕事をするのもひとつの選択肢でしたが、今は選手も海外に出て行っていて、指導者も出て行きつつある。まだアジアの中ですが、日本人指導者を探しているというニーズがあるところでちょっとやってみたいなと。シンガポールの場合は日本人に限定して探していたわけではなかったんですが、何人か候補がいた中で選んでいただきました。
 
U-18シンガポール代表は、常時トレーニングを行っているのですか?

はい。ナショナルフットボールアカデミーというものがあって、そこのU-18チームがU-18シンガポール代表になります。カテゴリーごとに監督がいて、僕はそのU-18を見ている形です。シンガポールはサイズ的に東京23区くらいなの小さな国なので、みんな通ってきて毎日練習をしています。U-13、U-14はシンガポールスポーツスクールというものがあって、そこは寄宿舎があって平日は住み込みでやっているようです。
 
-それぞれのカテゴリーに、選手は何人くらいいるのですか?

カテゴリーによって違いますが、だいたい20名から25名くらい。U-18は23名です。
 
-日本でも育成年代を指導されていますが、シンガポールの選手にはどんな印象を持っていますか?

日本と比べると、技術も個人戦術もそれほど高くはありません。やっぱり、サッカーに接している時間がかなり少ないんじゃないかと感じます。いろいろな方から話を聞いていると、子供たちを取り巻くサッカー環境があまりよくないのだと思います。シンガポールは教育が第一の国なので学校での拘束時間が非常に長くて、そこで彼らにかかる負担がかなり大きいようです。シンガポールは中華系、マレー系、インド系、ユーラシア系がいるんですが、特に中華系の子は親が勉強に力を入れるようで、今サッカーをやっているのはマレー系の子たちが多いんです。
 
-日本の同年代の選手を指導するのとは、アプローチの仕方なども違いますか?

最初に気になったのは、ディシプリン(規律)のところが日本とは大きく違うことでした。練習が時間通りに始まらない。あまり時間に対する意識がないので、練習が7時からだとしても、7時に来ようが7時5分に来ようが慌てる様子もないんです。文化の違いだと言われたらそれまでですけど、それは違うんじゃないかということで、そこから改善する必要がありました。
 
-そういった面は、日本と同じように指導を?

僕はここでは外国人ですから、基本的には文化や習慣はリスペクトしなければいけないと思っています。特に宗教的なことなどはなかなかタッチできない部分がありますが、サッカー選手としてプラスになるかならないか、というのはあります。シンガポールの子たちは、喫煙の習慣もあるんです。イスラム教はお酒を飲めないので男性は喫煙をする傾向があるようで、周りもみんな喫煙している環境の中で普通に手を出しているようです。でも、サッカー選手としてはプラスになることはないですし、周りに対してもマイナスです。僕はタバコを吸わないので匂いでわかるんですが、見つけた時には「次見たら、チームには居られないからね」という話をしました。逆に、東南アジアでは規律の面で日本人指導者が求められているということも聞きますから。
 
-注意したことに関しては、改善されますか?

他所から来た人間が言っていることを聞き入れてもらうためには、時間をかけて信頼されるしかないと思います。人間関係は成熟させないといけませんし、そこには大人、子供は関係ありません。特にU-18はナショナルフットボールアカデミーの中では最終の年になるので、そのあとはクラブチームに行くことになります。最終段階だからという話をしながら、そこに向けてちゃんとできるように子供扱いしないで接しています。
 
-タイなどでは、人前で叱ると萎縮してしまうということも聞きますが。

一応、僕もそういうことは地域によってあると思うので、ローカルのスタッフに相談しています。そういうことは避けたほうがいいのか、それともあまり気にせずやっても大丈夫なのか。気は使っていますが、今のところ大きなギャップはそこまで感じていません。他の子にも、同じ状況で何がいけないのかというのをわかってもらう必要もありますし、そこは大きくは変えていません。
 
-サッカーの面では、どういったところから手をつけましたか?

一番気になったのが、個人戦術の理解度が低いことでした。そこは、日本であればもっと低い年齢でやるような基本的なことからやっています。実際の年齢から2、3歳下げたような感覚でやっていますね。
 
-東南アジア全体としては近年、急成長をしていますが、シンガポールに関してはどうでしょう?

シンガポールの場合はちょっと違うのかなと。これまでは東南アジアの中ではある程度の位置にいたんでしょうけど、そこから下がっている状況だと思います。Sリーグのレベルも下がっていて、経済状況もよくないと聞いています。
 
-なぜそのような状況になっているのでしょうか。

シンガポールは今年が建国50周年で、短期間ですごく栄えた国です。そのために政府も構造作りにお金を費やしてきた。それがスポーツまで十分に向いていない状況だと思います。Sリーグでは本当にトップにならない限り、収入も普通にサラリーマンとして働いたほうがいいそうです。アカデミーの選手たちも、本当にSリーグを目指しているのかというのも疑問に感じます。Sリーグのアカデミーもそこまで整備されているわけではないので、現状、下からしっかり作り上げようという感じではないように見えます。
 
-シンガポールのサッカーが成長するためには何が必要だと思いますか?

現状、すごくいろんなことが弊害になっていると思います。学校の制度もそうですが、徴兵制があるので18歳以降に1年半兵役につかなければいけないのが大きい。一番大事な時期にごっそりと選手が抜けて、22〜23歳で戻ってきたとしてもそこは補えないところもあると思うので。Sリーグの外国人枠が「5」あるのも、ローカルの選手の出場機会を少なくしていると思います。今、新たに来たテクニカルダイレクターが、グラスルーツのところから手をつけていますが、そこから始めるしかないと思います。
 
U-18シンガポール代表としては、今どんな目標を掲げていますか?

今年はAFF(東南アジアサッカー連盟)とAFC(アジアサッカー連盟)のU-18の大会があります。シンガポールサッカー協会としては、来年行われるAFC U-19選手権へ向けて、まだ果たしたことがない予選突破を最大の目標にしています。東南アジアでは、タイを除いてはまだそこまで差はないと思いますが、今カンボジアなども下の年代にすごく力を入れていますから、そういうところは間違いなく出てくるでしょう。そうなった時に、どれだけ勝負できるかですね。



<了>
Text & Photo: 本多辰




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