2015-10-11

<プロフィール>
是永 大輔 / Korenaga Daisuke
Albirex Niigata Singapore チェアマン

大学卒業後、日本のIT企業でモバイル版のサッカーメディアの編集長を務める。またサッカージャーナリストとしても活躍。2008年、アルビレックス新潟シンガポールの代表に就任。現在は同クラブチェアマン、アルビレックス新潟バルセロナチェアマンを務める。

シンガポール・Sリーグで戦う日系クラブ、アルビレックス新潟シンガポールの社長を務める是永大輔。シンガポールでの戦いは10年を超え、昨季は新興のカンボジアリーグへの進出を試みたが、わずか一年で撤退を余儀なくされた。そこにはどんな現実があったのか。Jリーグが「アジア戦略」を掲げるはるか以前からアジアを舞台に戦いを続ける、「元祖アジア戦略」の今に迫った。
 
-急成長するリーグの多い東南アジアですが、シンガポールリーグの現状はどんなものですか?

経済的には各チーム、助成金と分配金とカジノの売上によってある程度お金は持っています。ただ、逆にそれだけでまわってしまうから、集客やスポンサー集めに必死にならないんですね。アルビレックスの場合は分配金の金額がかなり少ないので、地域での取り組みもしながら周囲の理解を得る努力を継続しないとなかなか難しいです。
 
-観客やグッズ収入についてはどう見ていますか?

現状はほとんど勘案していません。近年のタイを除いた東南アジアはどこも同じような状況じゃないでしょうか。マレーシアリーグなども観客は入っていますが、チケット収入はそれほどではありません。各国とも、まず観客を入れることが一番重要な段階だと思うので、現状をチケット収入の金額にこだわらなくてもいいとは思いますが、ここからどうなるか、ですね。タイリーグも4年くらい前までは同じような状況でした。上位のブリーラム・ユナイテッドなど数チームはしっかりしていますが、ディビジョン1(2部)のクラブなどでは給料の未払いが増えてきたようです。それが広がってくると、今盛り上がっているタイも難しい時代が来る可能性はあると思います。
 
-アルビレックス新潟シンガポールがシンガポールリーグで戦う一つの意義として、「若い日本人選手が海外で堂々とできるようになる」ということを挙げられています。

もちろんサッカーは大好きですが、極端に言えばサッカーはツールだと思っています。アルビレックスの存在があることで、選手やスタッフなどの日本人が海外に出て来るきっかけになれば、と思っています。その後、シンガポールから別の国に行ってもいいですし、結果、世界中で得た経験をこれから踏ん張らなくてはいけない時代が来る日本に役立てたいと思っています。現在のアルビレックスは外国チームの扱いですからリーグ優勝してもアジアの大会に進むことはできません。ですので、意義をそう設定しました。
 
-今季開幕前には、昨年カンボジアリーグに参戦したアルビレックス新潟プノンペンが1年でリーグ撤退となりました。これについて、理由を教えてください。

想像していたよりもはるかにお金がまわらなかったです。2014年は日系企業のイオンさんがカンボジアに進出するということで、日本からの注目も集まる絶好のタイミングだと思っていました。実際、ありがたいことに初年度はイオンさんが胸スポンサーでご支援いただくことになりました。さらにそこからの展開を見込んでいたのですが、結果的にはなかなか難しかったです。収益構造的にはスポンサー収入以外はほぼゼロなので、そうなってしまうと立ちいかなくなってしまいます。例えばシンガポールの場合は分配金やカジノ、スポンサーと分散されているので、どこかが大幅にマイナスになっても何とか踏みとどまることができるかもしれませんが、カンボジアではカジノの設立も法的に難しく、収入のリスク分散ができませんでした。
 
-今季からカンボジアリーグでは4つのクラブがスタジアムを保有し、チケット収入も発生するようにはなっています。

チケット収入と言っても、昨シーズンはチケット代が50セントでした。1000人入って500ドル、10試合で5000ドルです。これでは運営に十分とは言えません。カンボジアの場合は大きなビジネスオーナーやパトロンが名誉欲や趣味でサッカークラブにお金を出しているような感じがあります。そこにちゃんとしたモデルでスポーツビジネスが展開できればと考えていましたが、全ての単価が低すぎてなかなか難しかったです。
 
-1シーズンでの撤退となりましたが、見切りは早いほうがいいという判断でしょうか。

早いほうがいいとは思っています。ですが、最後は粘ったんです。見通しがあまりに暗かったので本当は昨年11月頃に撤退しようとも考えていたのですが、入れ替え戦とフンセンカップというローカル選手だけで行われるカップ戦に出て、トレーニングを続けていました。そうしたら、2月末にリーグの開幕が3月から7月に延期されるということを聞き、これはちょっと無理だなあ、と。それに限らず、直前での変更や難しい状況などがいろいろ重なって、難しいと感じました。
 
-今後、復活の可能性はありますか?

もちろん「いつかは」という気持ちはありますが、しっかりとカンボジアリーグの体制とこちらの体制が整わないと時間はかかると思います。ただ、やってみて初めてわかることもありましたし、何が問題なのかということもよくわかりました。
 
-カンボジアリーグへの進出は、基本的にはシンガポールと同じことをカンボジアでも展開しようということだったのですか?

ちょっと違います。カンボジアの場合は、経済的にも伸びしろのたくさんある国でスポーツビジネスを展開したかったんです。スポーツでちゃんと「飯が食える」ということを現地の人にも伝えたかったし、我々が上手くいけば日本からもっと優秀な人たちがやってくるだろうと。それこそ、スポーツビジネスが日本の輸出商材になるんじゃないか、と思っていました。
国の発展には、最初にインフラ整備があって次に経済発展、最後に文化、芸術、スポーツという流れがあります。シンガポールにおいては最終段階で、スポーツに投資しようとスタジアムを作ったり、いろんなイベントを呼んだりという動きがあります。タイもそこに差し掛かっていますが、それ以外の国はまだ経済発展の段階です。インドネシア、フィリピン、マレーシア、ベトナムなどがそこに入ります。
 
そしてカンボジア、ラオス、ミャンマーはまだまだインフラ投資の段階で「さあサッカーをやろう!」と言ってもなかなか難しいですね。その部分は進出前に悩みました。ただ、イオンさんが出てくるタイミングでしたので、日系企業の皆さんと噛み合えば面白いと思ったのですが、現実は甘くありませんでした。
 
-アルビレックス新潟はすでに10年以上アジアで戦っていますが、近年動き出したJリーグの「アジア戦略」についてはどのように見ていますか?

Jリーグともよく話をさせていただいていますが、いろんな国とパイプをつないで扉を開けるというのは、官民で分けるとすれば、官のJリーグだからできることです。我々、民がやることはそのパイプをくぐり抜けて、ちゃんとそこに根を張って行うビジネスです。Jリーグのクラブがアジアの国で単発のサッカークリニックをしました、日本からスポンサーを連れてきました、というだけではほとんど何も残らないと思います。クリニック自体が目的のワンショットのビジネスになっては意味がありません。地元の人が最終的に喜ぶのは、やはり継続的にその地で汗をかいて、泥だらけになりながら一緒にものや文化を作っていくことだと思います。
 
Jリーグのクラブはアジアで何をするべきでしょう?

地元で一緒にものを作る。トップチームでなくても、アカデミーでもいいと思います。でも、それを必ず現地の人たちと一緒に作る。なんとなく日本人は東南アジアを下に見ているところがあるように感じます。そういう上からの目線は、現地の人に伝わります。アルビレックスが偉いなどと言うつもりはありませんが、独立採算で現地とのコミュニケーションを重視して、ちゃんと一緒になって汗をかいてクラブを作っている。そういう発想でないと、「日本人が来た、お金を出してくれた」というだけで終わる話になってしまうと思います。
 
-現地に根を張って活動することの意義は、シンガポールで実感していますか?

実感しています。サッカークラブって何のためにあるのかと言ったら、お金儲けのためではない。やっぱり地域の人たちの笑顔や達成感、ひとりの人間としての歴史みたいなものを一緒にスポーツで作っていくということが、スポーツクラブにしかできないことだと思うんです。彼らは何に喜びを覚えるのかということを突き詰めて考えると、たとえば世界的な有名選手を連れてきてもみなさんは喜ぶと思いますが、何回か見たら飽きてしまうかもしれません。やはり、自分たちが当事者となって何かを作ったという達成感が一番嬉しいと思います。そういうことを表現できるクラブでありたいし、これからもそういう活動をしていきたいと思っています。



<了>
Text & Photo: 本多辰成



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