2016-03-05

【プロフィール】
伊藤 壇 / Ito Dan

1975年、北海道生まれ。MF。登別大谷高、仙台大を経てベガルタ仙台で2シーズンプレー(1年目のチーム名は「ブランメル仙台)。その後は、シンガポール、オーストラリア、ベトナム、香港、タイ、マレーシア、ブルネイ、モルディブ、マカオ、インド、ミャンマー、ネパール、カンボジア、フィリピン、モンゴル、ラオス、ブータンのリーグでプレーしてきた。

Jリーグのベガルタ仙台を退団後、「1年1カ国」のポリシーの下にアジアのリーグを渡り歩いてきた異色の選手、伊藤壇。2001年にシンガポールからスタートした旅はすでに15シーズン続き、プレーしたリーグ数は昨季のブータンリーグで18を数える。その数はすでに、ギネス級だ。昨年で40歳となった「アジアの渡り鳥」は今、何を見据えているのだろう。

 
-昨年のブータンリーグで、プレーしたリーグ数は18となりました。今後については、どのように考えていますか?

最初は10カ国でプレーすることを目標にしていて、それを達成したあとは世界記録となる16カ国を目指してやっていました。そういうふうに、やっていくうちに次の目標が見えてきて、このところ考えていたのは「40歳まではやろう」と。昨年40歳になって、次が19リーグ目。ベガルタ仙台でプレーしていた時の背番号がちょうど「19」だったこともありますし、いい区切りかなとも思っています。正直、チームを探す時にも、この年齢だとプレーを見る前に断られてしまうことも多いんです。需要が少なくなっているのは感じますけど、あと一カ国は頑張ってみようかなと。
 
-では、選手としては次の国が最後になる可能性が高いでしょうか?

それはモチベーション次第なので、やってみないとわかりません。でも、モチベーションは50歳になっても続くとは思うので、自分自身でどこかで線を引かなければいけないと思っています。それが、そろそろなのかな、というのは感じています。最近はこれまではなかった筋肉系の怪我が増えてきたり、体の変化を感じているのも事実なので。
 
-次にプレーするリーグの候補は考えていますか?

選べるのであれば、やはり人が行ったことがないところに行きたいと思っています。たとえば、中央アジアなどは全くといっていいほど情報が入ってこない国があるので、そういうところこそ俺の出番だな、と(笑)。ウズベキスタンなどは情報があるので逆に興味がないんですが、タジキスタン、トルクメニスタン、キルギスタンの三つはほとんど情報がないので気になっています。
 
-これまでアジアのリーグを渡り歩いてきて、東南アジアでもほとんどのリーグでプレー経験があります。今、タイを筆頭として東南アジアが注目され始めていますが、他のアジアの国々と比較して、東南アジアのポテンシャルには特別なものを感じますか?

やっぱり東南アジアはサッカーの人気も高いですし、圧倒的にテクニックがあると思います。タイが今、結果が出始めて注目されていますけど、タイに関しては今始まったことではないですよね。古いところではタイファーマーズバンク、BECテロサーサナなどがアジアで優勝したり決勝まで行ったりしています。リーグとしての盛り上がりはここ数年のことですけど、代表レベルでも昔は日本に勝ったりもしていましたから。
 
-今のタイはリーグの成長によって、もともと持っていた能力の高さがよりはっきりと形になり始めているという状況でしょうか。

そうだと思います。僕の世代だと、タイにはジーコ(キャティサック・セーナムアン)、タワチャイ、タワン、ドゥシット、スティーといったスター選手たちがいて、彼らはマレーシアやベトナムのリーグなどでもプレーしていたので、今の選手たちよりも東南アジア内での知名度は高かったんじゃないかと思います。タイはその「ゴールデンエイジ」が抜けてから少し低迷して、その間にシンガポールやマレーシアに優勝をさらわれたりもしました。今はまたタイが抜けましたけど、カンボジアなどの他の国も育成に力を入れ始めましたし、タイもあぐらをかいてはいられないと思います。今はタイだけですけど、数年後には他の東南アジアの国も注目されている可能性があると思います。
 
-タイに続く国はどこになると思いますか?

個人的には、代表レベルではフィリピンが来そうな感じがしています。フィリピン系の選手を世界中から集めてきたり、帰化させるなどして代表の強化を始めていますから。いろんな問題はあっても、四の五の言わずに、国のサッカーを発展させようと行動に出るところは評価できると思います。フィリピンリーグでプレーしていた時も、顔や体格がアジア人という感じではない選手が多くいました。海外で育った選手も多いので現地語のタガログ語がしゃべれなかったりもするんですが、噛み合ったら面白いことになると思います。東ティモールに関しても今、ブラジル人を帰化させて強化を始めたので注目しています。
 

-東南アジアの選手は「圧倒的にテクニックがある」ということでしたが、その理由はどこにあると思いますか?

僕が感じるのはやっぱり、日本にはないブラジル的なストリートサッカーが根付いているのが大きいと思います。ベトナムのクラブにいた時、寮の前のコンクリートのところでチームメイトとボール回しをすることがよくあったんですが、彼らはそういうところでのテクニックが本当に上手いんです。僕も足元の技術には自信があるほうなんですが、彼らの方が上手くてけっこう衝撃的でした。たぶん、あの環境では日本代表の選手よりも上手いんじゃないかと思います。自然と独特な技術が身についているところがあって、環境が悪いように見えて、ある意味では「環境がいい」のかもしれません。
 
あとは、セパタクローの文化があるので、股関節が柔らかいのも大きいと思います。たとえば、日本人は体の正面にボールが来たら一歩下がってトラップしますけど、タイなど東南アジアの選手たちはセパタクローのように足を折ってそのまま上手くトラップしてしまいます。日本人にはない技術や、自由な発想のプレーができるのは強みだと思います。日本の場合は指導法的にも基本に忠実なので、トリッキーなことをすると「かっこつけるな」とか、「正確にプレーしなさい」という感じになってしまってできない部分もあると思います。
 
-チームとしてはまだ日本とは差があっても、個人の能力は本当に高い選手が多いと感じます。

それは東南アジアに限らず、本当に国のレベルとは関係なく、どこにでもいい選手はいますよ。アジアのいろいろなリーグでプレーしてきた中で、タイも含めて一番すごいと思ったのはモルディブ代表のアリ・アシファクというフォワードの選手です。アジアのベストプレイヤーだと思うくらい、衝撃的でした。相手をなぎ倒していくような力強いドリブルをする左利きの選手で、今はマレーシアリーグで月200万円くらいもらってプレーしているようです。能力的には、Jリーグでも全く問題なくできるレベルだと思います。
 
去年、タイのブリーラム・ユナイテッドが獲得したブータン代表のセンチョーもいい選手です。去年、ブータンリーグで一緒にプレーしていたんですが、スピード、ジャンプ力と身体能力が高くて、日本にはいないタイプのストライカーです。1年目はブリーラムから下部リーグのクラブにレンタルで移籍して、後期だけで10点近く取っています。まだ20歳ですし、上のレベルでもまれればもっと伸びる選手だと思います。ブリーラムはいいところに目をつけたな、と。日本人はどうしても国の先入観で見てしまうところがあるので、それはあまりよくないんじゃないかと思います。
 
-現役を終えても、アジアでの特異な経験はいろいろな形で生かせそうですね。

実際、去年から「チャレンジャス・アジア」というアジアでプレーしたい選手をサポートする活動を始めています。僕自身もそうだったのですが、他の選手たちの声を聞いても、オフシーズンに練習する環境がないのが一番の問題になっています。それを解消するためにバンコクに集まって、トレーニングや練習試合を行っています。バンコクには近隣国のチームも遠征に来ることが多いので、チーム探しにも最適な環境なんです。個人的には、おかげさまで最近は講演会やトークショーなどの依頼をいただくことも増えましたし、本も出版させてもらいました(「自分を開く技術」著・伊藤壇/本の雑誌社)。これまでやってきた経験を、いろいろな形で還元していければと思っています。

<了>

Text: 本多辰成
 




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