2016-11-30

<プロフィール>
石川 正頼 / Ishikawa Masayori
カメラマン(カンボジア)

1987年、栃木県生まれ。カンボジアサッカーを撮り続ける日本人カメラマン。ワールドカップアジア予選の日本戦では、カンボジア代表のスタッフとして日本遠征にも帯同した。現在はカンボジアサッカー協会のオフィシャルフォトサプライヤーとして活動。

 

近年、選手や指導者だけでなく、さまざまな形で多くの日本人が関わっているカンボジアのサッカー界。そのなかで異彩を放つ存在なのが、カメラマンの石川正頼氏だ。カンボジアサッカーを撮り続け、ワールドカップ予選の日本戦ではカンボジア代表のスタッフ兼カメラマンとして日本遠征にも帯同した。カンボジアサッカーの発展に尽力する、異色の日本人カメラマンに迫った。

 
-カンボジアサッカーを撮っている日本人カメラマン、というのはとても興味深いです。どういうきっかけで、いつ頃から撮っているのですか?

2010年にNGOスタッフとしてカンボジアに来たのがきっかけでした。日本では車の部品メーカーに勤めていたのですが、以前にアジアを旅行していた時に知り合ったNGOの方から誘われて、会社を辞めてカンボジアに来たんです。ところが、来てまもなくそのNGOがカンボジアから撤退することになってしまいまして。会社を辞めて来ているのですぐに帰るわけにもいかず、とりあえず現地の日本企業に就職して1年半くらい働いたんですが、その頃にカンボジアのサッカーを撮り始めました。
 
-日本では、カメラマンの経験はあったのですか?

日本で勤めていた会社はレースに出る車の部品を作っている会社だったので、その部品を使っている車が走っているところを撮りたいと思ってカメラを買ったんです。仕事とは関係なく、趣味で撮っていた感じでした。カンボジアに来る時も、カンボジアの写真を撮りたいなという思いは持っていました。
 
-カンボジアのサッカーを撮るようになったのはなぜですか?

いえ、サッカーには全く興味はなかったんです。日本にいた時も日本代表の試合くらいはテレビでやっていれば見ていましたけど、基本的にはスポーツとは縁がありませんでした。カンボジアでサッカーを撮るようになったのは、ちょうどその頃にカンボジアリーグで最初の日本人選手として太田(敬人)選手が来たのがきっかけでした。その当時、カンボジアに日本人の物書きの方がいて、太田選手のことを書きたいから写真を撮ってほしいと言われたんです。
 
それまでサッカーを撮ったことはなかったんですが、撮ってみたら面白くて。最初は太田選手の試合だけを撮っていたんですが、だんだん他の試合も撮るようになりました。現地のメディアでも僕が写真を撮っていることが知られるようになって、写真を使わせてほしい、と。サッカー選手ですらサッカーでご飯を食べていないような国だったのでもちろん無償でしたけど、現地メディアに写真を提供するようになりました。そんな状態が2、3年続きましたね。
 
-カンボジアでサッカーを撮ることの、どこに面白みを感じたのでしょうか。

当時、カンボジアでサッカーを撮っているカメラマンは3人くらいしかいませんでした。試合を見ている人も100人いるかいないかくらいです。でも、選手は一生懸命やっていて、こんなに一生懸命やっているのに誰も注目しなかったらモチベーションが下がるだろうな、と。どうせだったら、みんなに注目してほしいと思ったんです。
 
-写真を通して、その力になろうと思ったのですね。現在は、どこかの媒体に所属して撮っているのですか?

はい。「カンプチアトメイ」という現地の新聞社に所属しています。テレビ、ラジオなども持っている新聞社なので、いろいろなメディアのために写真がほしいということで写真事務所が作られて、そこにカメラマンとして就職しました。今シーズンからは「カンプチアトメイ」がカンボジアサッカー協会のメディアチームに加わることになったので、僕自身も協会のオフィシャルフォトサプライヤーとして活動しています。
 
-では、今はサッカー以外も撮っているのですね。

そうですね。ただ、シーズン中はサッカーをメインに撮っています。実は、うちの新聞社はカンボジアリーグのスバイリエンというチームのオーナー会社なんです。なので、スバイリエンを売り込むことにはすごく力を入れていて、お金にも糸目をつけないという感じです。放送権も買い取って全試合中継していますし、結果ももちろん詳しく掲載します。それだけお金を使ってどれくらいの効果が得られるのかという実験を、今やっている感じです。僕も毎試合スバイリエンの試合は張り付きで撮影していて、それ以外の時は自由に注目の試合を撮っています。
 
-カンボジアのサッカーは今、大きな変革期を迎えていると思います。ワールドカップのアジア予選でも初めて1次予選を突破して、大変な盛り上がりを見せていますよね。

びっくりですよね、本当に。今までは、選手も「サッカーでちょっとメシが食えればいいや」みたいな感じだったと思いますし、ファンをつかむための努力もしていませんでした。メディアもただニュースを流すだけという状態だったので、すべてがまだまだでした。今やっとみんな、ちょっとだけ本気になったという状況だと思います。スバイリエンはプノンペンから3、4時間離れた場所にあるクラブなんですが、毎試合3、4千人入っていますし、今の段階では観客を増やすのはそれほど難しいことではないようにも感じます。
 
-潜在的なサッカー人気は高かった、ということなのでしょうか。

純粋にサッカー熱が高いのかというと、何とも言えないかもしれません。とにかく娯楽がないので、たとえばあそこでボクシングをやったら人は集まらないかといったら、そういうわけではない気がします。その時間、何もせずにボーっとしていた人たちがサッカーを見に行くようになった、という程度の段階なのかもしれません。まだ「このチームを応援しよう」と来ているようには思えませんし、だからこそ今、メディアは一生懸命仕事をしなければいけないんじゃないかと。
 
-カメラマンとしては、どのように貢献していきたいと考えていますか?

僕はカメラマンですけど、カメラマンの枠にとらわれないように仕事をしていきたいと思っています。スポーツメディアというものが全く確立されていない段階の国なので、いろいろな提案もしていかなければいけません。たとえば、今考えているのは、選手のサイドストーリーを取り上げるスポーツ雑誌を作ることです。現状、カンボジアには一誌だけスポーツ雑誌があるんですが、広く浅く、「こんなイベントがありました」ということを伝えるだけのものです。選手のサイドストーリーを取り上げながら、批判するところは批判して、それでも次のために努力していこう、ということが伝えられるような雑誌を作りたいと思っています。
 
-本当に、全てが一からという感じなのですね。日本人だからこそ力になれることも、いろいろとあるのではないですか?


日本に行った時も、選手名鑑とかJリーグ選手のカードとか、とにかくいろいろなものを買って来て見せたんです。Jリーグの選手名鑑を見せたら、「へ〜、こんなものがあるのか」という感じで、カンボジアリーグの選手名鑑を作ろうかという話も出ています。新しいものを貪欲に取り入れていこうという姿勢はある会社なので、こちらからいろいろと案を投げていきたいと思っています。
 
-ワールドカップ予選の日本戦では、カンボジア代表のスタッフとして日本へも帯同されています。日本を相手に戦うカンボジア代表を撮影して、どんなことを感じましたか?

やっぱり今まで以上に、チームに愛着を感じるようになりました。0-6、0-7くらいで負けると思っていたんですが、ああやって最後までハードに仕事をするんだな、と。カンボジアの選手は2、3点取られると諦めてしまうことが多いんですが、そうならなかった。いいチームだな、と思いました。僕がカンボジアサッカーを撮り始めた頃にはベンチに座っていたコが今、代表に入っていたりするので、そういうのを見ると嬉しいですね。
 
-カンボジアサッカーのさらなる発展のためには、何が必要だと思いますか?


厳しさも植え付けていかないといけませんよね。それはメディアの仕事でもあると思います。今は批判というものがほとんどないので、批判するべきことはしないといけないと思っています。それから、選手は国外にも出て行って、いろんな国のサッカーを経験してほしいです。今はファンと選手が友達のような感覚なので、選手に価値がついて、選手がファンから尊敬されるようにならなければいけないと思います。彼らに価値を付けるのが僕らの仕事なので、その手助けができればと思っています。



<了>

Text & Photo: 本多辰成




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